(承前)

 2は、あまりに無茶なスピード感とプロットでおれの度肝をダース単位で引っこ抜いた怪作。荒唐無稽といえばそうなんだが、こんな話、思いついても書くやつはいないだろうし、無理をぶっ通して道理を地の底にねじこんでしまったような力技には爽快感すら感じる。何よりも、ワケわからないうちに胸倉つかんで物語に引きずり込む冒頭の展開が見事すぎる。同じ著者のもう1作、『解雇手当』も無茶な話で、こっちもおすすめ。

 3は話題作の2作目。エクストリームだったり高踏的だったりする作品に偏りがちな海外ミステリ紹介の流れに一石を投じた、清く正しい真っ当なエンタテインメント。『チャイルド44』(トム・ロブ・スミス)同様、こういうものがシーンを牽引するエンジンであってほしい。ただ真っ当であるがゆえに予定調和感は否めない(そこがいいんだが)ので、危うい感覚がいちばん強い第2巻を推す。壊れたヒーロー、リズベット・サランデルのまとう暗い光輝がもっとも映えているのは本作だろう。湿った森の禍々しい匂いが満ちたクライマックスは、無慈悲な北欧ブラック・メタルを聴きながら読んだ。

 4を一気に読んだときの奇怪な気分はちょっと忘れがたい。ポスターカラーで描かれたかのごとき異様なガジェット。クリシェを多用した痛快なB級アクションと、そこにまじりこむ狂気の不穏な気配。軽快さだけを旨として書き進めているように見える筆には、じつは仕掛けに通じる周到な計算がひそまされている。最後にはじける仕掛け罠は眩暈を喚び起こす——だからこそ色彩はポップで物語はクリシェでなければいけなかったのだ。

 5にはほとんど欲情した。怜悧な美貌のシリアル・キラーと、かつて彼女に囚われて暴虐のかぎり(脾臓を抜いちゃうとか)を尽くされた刑事の関係を軸とする、超インモラルで、超ロマンティックなサスペンス。「肝臓を病んだ男の血は大好き。だって甘いから」と血塗れの刃を舐める殺人鬼グレッチェンを造型しただけで本作の成功は約束されたも同然だったはずだ。ほどよく引き締まった語り口、毒を消すわずかなユーモア、手抜きなく練られたプロットと、ミステリとしても一級品である。前作と合わせて是非。

(つづく)