書評七福神とは!?

「書評七福神」とは、翻訳ミステリーが好きで好きでたまらない書評家七人のことである。

日々貪るように翻訳ミステリーを読んでいる七人に、この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を挙げてもらった。当然事前相談なし、挙げた作品の重複ももちろん調整なし。挙げられる作品は必ずしも今月のものとは限らない。今年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わないというルールだからだ。

 さて、今月の結果はいかに……。

北上次郎

『バッド・モンキーズ』マット・ラフ/横山啓明訳(文藝春秋)

 第一作は風間賢二氏、第二作は山形浩生氏、第3作は大森望氏と、「一筋縄ではいかない小説の錚々たる読み手たちがマット・ラフ作品を絶賛している」と訳者あとがきにあったので、これはオレ向きではないなと思ったのだが(特に大森望)、これが意外に面白い。くいくいと読み終えるのである。

霜月蒼

『バッド・モンキーズ』マット・ラフ/横山啓明訳(文藝春秋)

『レポメン』と迷ったが。クロームめっきを施したB級アクションにしてポストモダンなミステリ。読んでいるうちにこっちの正気が危うくなるようなヤバさが軽快さの底に潜む。殺人ピエロが夢に出そうでgood。

吉野仁

『石が流す血』フランセス・ファイフィールド(ランダムハウス講談社文庫)

 なぜやり手の女性弁護士はホテルから飛び降りたのか。やがて直前に担当した裁判の異様な状況が明かされてゆく。英国推理作家協会最優秀長篇賞受賞も納得の、ハイスミス、レンデルに匹敵する傑作サスペンス。極悪人を含め登場人物の描き方がすごいのだ!

川出正樹

『バッド・モンキーズ』マット・ラフ/横山啓明訳(文藝春秋)

 十四歳の秋。通っていた高校の用務員が連続殺人鬼じゃないかと疑ったことが、そもそもの始まりだった。”バッド・モンキーズ”にスカウトされ、NC銃片手に悪を滅する女が精神科医に語る、ポップでクールな暴力に満ちた半生記の行き着く先は? 歪んだ世界の歪んだ犯罪喜劇に、鼻面を引き回された末に訪れる驚愕のラスト。うーん、クールだ。

杉江松恋

『バッド・モンキーズ』マット・ラフ/横山啓明訳(文藝春秋)

 題名と装丁からC級ブートレグかと思って読み出したのに、なんだよ、少し泣かされちゃったじゃないか。ヒロインがどうしようもない嘘つきだというのがまずいい。ひねくれ者が魂の救済について語る小説なのよね。これはまずい、年間ランキング入れ替え開始。

村上貴史

『バッド・モンキーズ』マット・ラフ/横山啓明訳(文藝春秋)

 クールなガジェットと個性的な面々の活躍を綴るリズミカルな文章に酔い、ツイストに富んだプロットに身を委ねる快感は極上。しかも結末にはあんな逆転劇が待ち受けているとは! 装幀を含めて大満足の一冊だ。

池上冬樹

『犬の力』ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳(角川文庫)

 今年のベスト1を『ミレニアム』と争う力作。30年間にわたる中南米の麻薬戦争を事件と事実を中心に描ききった叙事詩。ウィンズロウがこんなに濃密で巧緻な物語を作り上げるとは思わなかった。

 以上、今月の結果でした。来月はどんなおもしろミステリーが読めますことか。