12番目のカード

ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳

The Twelfth Card, Jeffery Deaver

文春文庫上下二巻

 リンカーン・ライム・シリーズ第6作、文庫化!

 140年前に解放奴隷の男を襲った悲運と

 少女をつけ狙う冷血の殺人者とのつながりは?

 自身のルーツを博物館の文献で調査していた女子高校生ジェニーヴァが、不審な男に殺されかけた。賊は現場から逃走した。ゆきずりの暴行未遂と思われた事件だったが、現場に残った証拠を精査した科学捜査の天才リンカーン・ライムは、それが犯人によって意図的に残された偽の証拠だと看破する——ジェニーヴァは狙われたのだ。ジェニーヴァが調べていたのは、140年前に金貨を盗んだとして官憲に追われた解放奴隷シングルトン。その資料も現場から持ち去られていた。歴史の奥底に埋もれていた事件が、21世紀の現在に関わることなどあり得ようか?

 目的達成のためなら無関係の人物まで殺すことをいとわない——謎の殺人者は執拗にジェニーヴァを狙いつづける。アメリア・サックスをパートナーに、ライムは殺人者のプロファイルを証拠から組み上げてゆく一方で、過去の事件の謎を追う……。

 ミステリ界最大の人気を誇るリンカーン・ライム・シリーズ第6作が待望の文庫化です。

 カリズマティックな「敵」をフィーチャーした人気作『魔術師(イリュージョニスト)』と『ウォッチメイカー』にはさまれて地味な印象のある本作ですが、そこはディーヴァー、本書でも見事なアクロバットを演じています。そして何より本作最大の特徴は、「安楽椅子探偵」ものとしても一級品だということなのです。

 ライムは首から下が麻痺しているのでもともと「安楽椅子探偵」ではないかとおっしゃる長年の読者のかたもいらっしゃいましょうが、本作はいつも以上に「安楽椅子探偵」的。 何せ本書でライムは、古い文書を手がかりに「140年前の謎の事件」の解明に挑むのです。シングルトンの身に起きたことは何だったのか。彼が手紙に書かなかった「秘密」は何であり、それがどう「現在」に影響するのか、あるいはしないのか。それが本書のもうひとつの軸になっており、それが解かれた途端、物語には痛快きわまるオチがつくのです。

 おなじみのシリーズ・キャラの姿に、いつも以上にフォーカスが当てられていることも大きな魅力。ロン・セリットーを危機が襲い、のちの作品で活躍する天然の新米警官プラスキーが初登場、FBIのデルレイも八面六臂、『悪魔の涙』のパーカー・キンケイドまで顔を出すという豪華さ。ファンにはたまらない楽しさ満載です。

 人種偏見への怒りと、人間の強さを信じようとするディーヴァーのまなざしが、力強い感動を最後にもたらす本書。再読して目頭が熱くなったことをここに告白いたします。

(文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎)