(承前)

 2位にはロバート・リテルの大河スパイ小説を。40年近くにおよぶ米ソの諜報戦からソ連崩壊にまで及ぶ、CIAの物語だ。

 個々のエピソードは、冷戦の最前線を舞台にしている。ハンガリー、キューバ、アフガニスタン……。米ソが直接衝突しなかっただけで、冷戦というものが戦争に他ならなかったことを痛切に感じさせる。

 もちろん、KGBももう一方の主役だ。彼らが密かに進める計画が物語の軸であり、諜報機関としてはCIAよりも優秀な組織として描かれている。

 冷戦以降の視点から冷戦を振り返ったスパイ小説(だから、本書ではアフガニスタンが重要な役割を担っている)であり、重厚な歴史小説といってもいい。

 本書の刊行されるしばらく前に、調査報道ジャーナリストによる『CIA秘録』(ティム・ワイナー/文藝春秋)というCIA通史が刊行された。こちらも併せて読むと、本書の楽しみもさらに増すことだろう。

 3位には、多彩なアイデアが豊富に詰め込まれた、完成度の高い三部作を。

 三作のうちどれか一作だけ……となれば、孤高のヒロインの存在感が鮮烈で、さらに最後の最後まで油断できない『2 火と戯れる女』を選ぶ。ただしこのシリーズ、ある巻では余談としか思えなかったエピソードが、後の巻で重要な意味を帯びてくることも珍しくない。なので、必ず一作目から三作目まで続けて読んでいただきたい。

 ぜひ多くの方に読んでいただいて、海外ミステリの楽しさを知ってほしい。

 4位の『死神を葬れ』は、何を語るかはもちろん、どう語るかに力を注いだ作品だ。

 過去と現在を並行させた先の読めない構成はもちろん、悲痛なエピソードでさえも軽妙に語り、脚注をも巧みに駆使するそのスタイルも忘れがたい。最後の最後まで読者を翻弄する一冊。未読の方は、ぜひ手にとって翻弄されてください。

 5位の『バッド・モンキーズ』の土台にあるのは、正義と悪の秘密組織が戦っているという陰謀論的世界観。

 過剰にカラフルな武器、安っぽいアクション。そして何かにとり憑かれたかのようなヒロインの語りが、読者を不穏な陰謀妄想世界に引きずり込む。

 中途半端にP・K・ディックを模したような残念なオチだったらどうしよう……という懸念はきれいに吹き飛ばされ、見たこともないような異形のラストへと突入する。

 総合的な順位はこの位置だけど、アクの強さでは今年のトップだ。

(つづく)