(承前)

 さて、私が選ぶ「短篇小説ベスト5」は以下の通りである。もっとも、その時の気象状況とエッチな気分と腹の空き具合でベスト5の中身は変わるのだが、今はこんな気分♪

1 ワーナー・ロウ「リンカーンのかかりつけの医者の息子の犬」

2 ウィリアム・F・ハーヴェイ「炎天」

3 ウィリアム・バンキアー「憑きもの」

4 ハーラン・エリスン「鞭打たれた犬たちのうめき」

5 ダグ・アリン「殺しのバラッド」

 はっはっは。1位のワーナー・ロウって作家、知っているかい? ご存じの方はそれなりのミステリファンだろう。知らない方はーー急いで小鷹信光先生による昨年の新刊『新・パパイラスの舟と〈21の短篇〉』(論創社)を読むように。版権の関係で彼の短篇は収録されてないけれども、ロウがいかにすばらしい作家であるかは、この本に丁寧に書いてある。そして彼は、嘘かホントか知らないが、翻訳権料が高い、と噂される伝説の短篇作家なのだ。

 そんなロウの1は、彼らしくミステリともSFともとれる不思議な作品で、初出は米国プレイボーイ誌。ボインのプレイメイト・ネーチャンのとなりに掲載され、あまりにヘンな物語なのでストーリーの紹介に困るという珍品だ。だってタイトルからして奇妙でしょ? この小説が醸し出すヘンな気分をぜひとも皆さんと共有したいなあ。アイザック・アシモフ編纂のアンソロジー『いぬはミステリー』(新潮文庫)収録。

2は、私が世の中で書かれた小説の中でも最も怖いと思う一編(『怪奇小説傑作選1』(創元推理文庫)所載)。暑い夏の日の殺人を描いた短い話だが、書き方が強烈なので、小説が終わってもその先を想像してしまうという悪夢のような作品だ。特にラストの一行の不気味さというか、気色に悪さというか、ああ、思い出すだけで・・・。

近年これに匹敵する短篇がわが国にも生まれた。北村薫の新刊短編集『元気でいてよ、R2—D2』(集英社)に収録された「腹中の恐怖」がそれで、手紙形式の短い物語なのだが、これが忌まわしいのなんの! 北村センセ、ニコニコした顔をして、こんな邪悪な話を書くなんてぇ、ホントにもう人が悪い。ちなみにこの小説、妊婦さんは決して読んではいけません。

 3は、前回の執筆者、松坂健さんから「ウィリアム・バンキアー、知らないの? スゴイぞー! 特に『憑きもの』って短篇。これは学生時代に読んで、あまりの衝撃に、掲載された「ミステリマガジン」(1970年6月号)を皆で読みまわしたんだ!」と教えて戴いた短篇。我が家の本棚になかったので国会図書館まで行ってコピーを取り、読みはじめたら止められなくなって、国会図書館前のバス停前に座り込んで一気読みした。ニューヨークのバーの奥に潜む魔物の話だが、オチが強烈。語り口も〈あなた〉が主人公の二人称形式。雰囲気もワンダフル。これが短編集未収録とは!

 4は、暴れん坊作家エリスンのエドガー賞受賞作。大都会に住む人間の神への畏怖を描いた形而上学的なクライム・フィクションで、奥の深い思索に満ちた不思議な物語だ。言葉遣いや、ストーリーの展開もかっこいいんだなあ。アンソロジー『エドガー賞全集(下)』(ハヤカワミステリ文庫)で読むことができる。

 5は、近年の優れた短編作家を一人あげようと思ってエントリーした短篇。18世紀の楽器ヴィエイラを奏でてバラードを歌い、米国各地をさすらい続ける音楽バンドが連続殺人に巻き込まれる。そして、捜査中の警官とバンドのメンバーの間に心の交流が生まれるが・・・という話。バラードによる見立て殺人というミステリ趣向が楽しいし、人間ドラマとしても見事で、読後深い余韻が残る音楽ミステリの傑作であった。こんな味のある小説が雑誌「ミステリマガジン」(2003年9月号)に掲載されたままになっているなんて、惜しいなあ!

 私は、ダグ・アリンは長篇よりも短篇の方が冴えているように思う。短編集『ある詩人の死』(光文社文庫)もすばらしい短篇が揃っていたし。

以上、つらつら書いてきたが、短篇のネタになると話は尽きない。もし次があるならば、「ジャンル別短編集、これ一冊あればOK!」といった感じの「傑作短編集ベスト5」を挙げてみたい。例えば、密室物ならH・S・サンテッスン編の『密室殺人傑作選』(ハヤカワミステリ文庫)とかね。ではまた。

 小山正