秋も深まり、暖かい飲み物が恋しい季節になった。先日も新宿東口の老舗名曲喫茶店らんぶるに行き、熱いコーヒーを飲みながら、買ったばかりのジョージ・R・R・マーティンの中・短編集『洋梨型の男』(河出書房新社)を読むことにした。

 古いスピーカーからはベートーヴェンの交響曲第5番「運命」がほどよい音量で聞こえてくる。「ジャジャジャジャーン」

 この店の音楽が良いのは、曲をダイジェストではなく、第四楽章までしっかり聴かせてくれる点だ。有線放送にありがちな細切れのクラシック・チャンネルではないのだろう。ちゃんとレコードをかけているのかな? 「ジャジャジャジャーン」

音楽に合わせ、にがみと渋みの混じったホットを飲む。あー、たまらん。下らないダジャレに聞こえるので言いたくはないが、でも、やっぱり言いたい。うんめえ。

 最初の一編「モンキー療法」を読み始めると、これが私好みの「猿ネタ」のバカ話だった。ピザ好きの肥満男が挑んだ奇想天外なダイエットを描いたSF色のある怪奇幻想短篇。しかもラストは爽やか、というか喜劇的というか。コーヒーのような渋みもあって、幸せ。

 とにかくこの作品集がおもしろく、コーヒーと音楽を味わいながら一気読みしてしまった。表題作の中篇「洋梨型の男」は文字どおり洋梨のような頭をした隣人の男が、主人公の女性にネチネチとつきまとう不気味な話で、大都会の恐怖を徹底的に描いている。キモチワルサもここまで来れば芸術で、第一回ブラム・ストーカー賞も納得である。ジョージ・R・R・マーティンは以前からホラー色の強いSFを書く名人で、奇怪な昆虫の共食いを観察するのが好きなサディスティックな男の末路を描いた中篇「サンドキングス」(ヒューゴー賞受賞作)も慄然とする傑作だった。

 とまあ前置きが長くなってしまったが、この季節は無性に短い小説が読みたくなる。何種類ものベスト10投票や、怒涛の新刊洪水のおかげで、尻を叩かれるように本を読み、とりわけ近年は上下巻の分厚い大長編が多く、その反動なのだろう、切れ味の良い短篇が恋しくなるのだ。というわけで今回は、私の気分に合わせて短篇の話をしよう。しかし、皆さん、長篇の話はよくするけれども、短篇はあまりしないなあ。なぜに?

(つづく)