——あなたは熱さ寒さには強いですか?

全国の翻訳ミステリ愛好家の皆様、こんにちは。東京創元社編集部、翻訳ミステリ担当のSと申します。今年の三月に新卒で入社した新米編集者です。

 さて、私が書けることってなんだろう・・・・・・と悩んだ結果、まだ記憶にあたらしい「我は如何にして翻訳ミステリ編集者となりし乎」を書こうと思いつきました。一言でいうと就職活動についてです。

 私は大学時代ミステリ研究会に所属していました。そして大学三年生の春、「絶対ミステリの編集者になってやる!」と決意し、大手中小問わずさまざまな出版社を受験しました。そのなかで印象に残っているのは、今在籍している東京創元社です。

 試験は書類選考、筆記試験、面接二回です。書類選考は履歴書と作文で、「会社に入ってまずやりたい企画」というお題でした。ここまでは30社以上出版社を受けていればなんとかなります。しかし次、筆記試験がとてつもない難関なのです!

 東京創元社といえばミステリ、SF、ファンタジー、ホラー・・・・・・。他の出版社では確実に出題されないであろう、マニアックな問題ばかりが並びます。「『樽』の作者は誰か?」これは当然わかります。しかし「J・G・バラードの作品を覚えているだけ書け」。これは・・・・・・バラードって誰!? と、SFを全く知らなかったために頭を抱えました。(ファンの皆様すみません。)

 もっと難しかったのが、ミステリの原文とおぼしき英文読解の問題です。15行ほどの英文が書いてあるのですが、他にタイトルも著者名もない。その英文がどういう作品なのか、手がかりも全くないのです。それなのに問題文は「この作品の帯の文言を考えなさい」・・・・・・正直何を書いたのか全く覚えていません。ちなみに、出題されたのは『怪盗タナーは眠らない』(ローレンス・ブロック著、阿部里美訳)の一部分でした。

 ぼろぼろだった試験ですが、なぜか奇蹟は起きました! そして筆記試験を乗り越えた先に待っていたのは、二回あった面接でした。「無人島に持って行くとしたらどの本?」「最近気になっている歴史上の人物は?」「最近面白かった翻訳ミステリは?」などなど、さまざまなことを聞かれました。しかし一番回答に困ったのは、冒頭に掲げた「あなたは熱さ寒さには強いですか?」です。聞いた瞬間、「は?」と思考停止。正直に「はぁ・・・まあ。強いほうだと思います。」と答えると、続いて「では、どこでも寝られるほうですか?」「・・・・・・はい。」

 これらの質問になんの意図があったのか、未だにわかりません。編集者に一番必要なものは体力だということなのでしょうか。しかしこんなことを聞かれたのは、間違いなく創元だけでした。

 いろいろな意味で大変だった就職活動でしたが、なんとかなりました。そして初めての本も無事に出すことができました。『水時計』(ジム・ケリー著、玉木亨訳)です。よろしくお願いいたします。(宣伝)これから頑張って面白い翻訳ミステリをたくさん紹介していきたいと思います。

 編集部S