ドン・ウィンズロウの大作『犬の力』の人気が高いねえ。それに匹敵するのが、北欧から登場した超弩級の新人スティーグ・ラーソンの大作『ミレニアム』シリーズだ。両者のどちらを上位とするかは個人の自由だが、私の場合は後者が上。『犬の力』も良かったが、心から胸がときめいたのは『ミレニアム』だった。

 確かに『犬の力』は読みごたえ満点だし、小説としての完成度も高い。だから多くの人がベスト10投票で高得点を入れるのも頷ける。私自身も各種投票で高得点を入れた。

 が、しかし。南北アメリカの麻薬戦争という題材と、そこに巻き込まれた人間たちの壮絶なドラマは、小説ではないけれどもウォルター・ヒル監督によるマニア好みの映画『ダブル・ボーダー』(一九八七)や、マイケル・マン制作のTVムービー『ドラッグ・ウォーズ/麻薬戦争』(一九九一)、近年だとスティーヴン・ソダーバーグ監督の傑作映画『トラフィック』(二〇〇〇)などで経験済みだった。そんな既視感もあったのだろう、私は複合建築のような巨大な謎解きミステリ『ミレニアム』のほうが新鮮さと衝撃度において勝っていると思った。やっぱり私は、稚気があって、知的興奮をともない、ミステリ・マインドにあふれる小説が大好きなのだ(もっと言うと・・・『犬の力』と『ミレニアム』のどちらを上に置くかで、その人のミステリ感がわかる、と言えるだろう。これはベスト10というモノの実態を解析する上でも重要なことだと思う。でも、それはまた別の話だ)。

さて今回の「私の暫定的なベスト10」は天の邪鬼にやらせて戴く。だって、ベスト10の投票も終わり、なんとなく「これが1位かな?」「2位はたぶんあれだ」というのが邪推できるこの時期にあって、私が今さら「第1位は『ミレニアム』で、第2位は『犬の力』」などと書いてもねえ。それより、ベスト10の投票とか関係なく偏愛・盲愛した私的ベスト10をご紹介した方がよっぽど楽しい。でもね、バカミス・ベスト10ではありませんよ。バカミスはもっと入念に時間をかけて厳選するものなので、こちらは別の機会に発表したい。

 というわけで、以下が「私のベスト10暫定版改め、ベスト10には決して入らないだろうけれども、でも本当にすばらしい作品だった“番外地・裏ベスト10”」。興が乗ってきたので洋書も挙げちゃえー。

1 『麗しのオルタンス』ジャック・ルーボー(創元推理文庫)

2 『金剛石のレンズ』フィッツ・ジェイムズ・オブライエン(創元推理文庫)

3 『死せる案山子の冒険』エラリー・クイーン(論創社)

4 『闇のオディッセー』ジョルジュ・シムノン(河出書房新社)

5 『修道女フィデルマの叡智』ピーター・トレメイン(創元推理文庫)

6 『十の罪業Red & Black』 エド・マクベイン編(創元推理文庫)

7 『ダブリンで死んだ娘』ベンジャミン・ブラック(講談社ランダムハウス文庫)

8 『阿娘はなぜ』金英夏 (白帝社)

9 “Sherlock Holmes & Kolchak”Joe Gentile 他著(Moonstone books)

10“The Twilight and Other Zones”Stanley Water 他編(Citadel Pres)

(つづく)