こんなに原作とキャラが違ってていいわけ?

 今、医学者探偵といえば、誰のことだと思います?

 元祖法医学者探偵のソーンダイク教授?(『赤い拇指紋』とか、古典過ぎますかね、やっぱ(笑))

 スケルトン探偵ギデオン・オリヴァー?(初期作品『暗い森』は、ミステリの範疇に収まってないところが魅力でもある傑作ですよね)

 それとも、やっぱり、美人の女医さん、ケイ・スカーペッタ?(そういや、シリーズ最新刊はなんでしたっけ?)

 いやいや、今、アメリカのテレビドラマ界で美人の法人類学者探偵といえば、『BONES(ボーンズ)』の主人公、テンペランス・ブレナンなのです。

 ワシントンのジェファソニアン研究所に勤務する法人類学者のボーンズ(これって、『スター・トレック』の船医、ドクター・マッコイのあだ名と同じですね)ことテンペランス・ブレナン博士は、日頃は遺跡から発掘された白骨やミイラなどの鑑定をおこなっていますが、ひとたびFBIからの要請を受けると、変死体の鑑定にもとりかかります。

 現場にも出たがり、捜査そのものにも口を出したがる彼女は、武術の心得もあり、全米ライフル協会の会員でもある武闘派で、銃を携行したがっては、FBI捜査官のシーリー・ブースを悩ませますが、ここぞというところで彼を助けることもしばしば。

 ミステリ作家としての顔を持ち、デビュー作から大ベストセラーを連発、映画化の話まで持ち上がる売れっ子で、世間的にも名前が通っています。

 その研究室には、彼女以下優秀な学者がそろい、最新鋭の科学技術を駆使した鑑識で、難事件を次々に解決していきます。

 ……と書くと、非の打ち所のないスーパーヒロインに見えますが、実はこの人、「超」のつく変人でもあるのでした。

 バツイチなのはともかく、テレビを持ちだそうとした元夫ごと、バットでテレビをぶん殴って壊して以来、テレビを持たない&見ないを徹底しているうえ、元々子供の頃からあまりテレビを見ない人だったため、世間の話題やテレビの話になると皆目ついていけなかったりします。

 しかも、学生時代から学問一辺倒の生活が良くなかったのか、他人の感情というものや世間の常識というものに疎く、論理的でないものは片っ端から否定してしまう悪いクセがあります。おかげで、ブースの捜査にくっついていっては、行く先々で会った人達を相手に、トラブルを引き起こすこと多し。

 要は『スター・トレック』でいうと、ボーンズよりはスポックみたいな人なんですね、この人。

 という、極端なキャラが主人公のこのドラマ、ミステリの部分よりも、登場人物たちのかけあいの楽しさに比重が置かれた、軽いコメディ仕立てになってます。

 中でも、捜査上の相棒であるブース捜査官(考えるより先に手が出る体育会系)とボーンズとの、くっつきそうでくっつかない恋のさやあてが人気の的だとか。

 さて、実はこのドラマ、原作というか原案があって、すでに翻訳が4冊(『既死感』、『死の序列』、『骨と歌う女』、『ボーンズ—命の残骸が放つ真実』)も出ているのはご存じでしょうか?

 でもって、原作とテレビドラマとでは、主人公の名前と職業以外、設定がほとんど変わってしまっているということはどうでしょう?

 原作版のテンペランス・ブレナンの勤務先は、カナダの法医学研究所。シリーズ開始時は、夫婦仲のぎくしゃくしてきた夫(その後離婚)が、娘と一緒にアメリカに住んでいます。夫との仲に悩み、気になる男性(地方警察の刑事)の出現に悩み、娘の成長に悩みつつも、毎回、地道に白骨死体や腐乱死体の鑑別にあたるという、かなり地に足のついたキャラクターなんですね。ちなみに、あだ名も「ボーンズ」なんて派手なのじゃなくて、単に名前を縮めた「テンペ」。

 まあ、そのままじゃ確かにテレビの連続ドラマにするには地味すぎるかもしれないけど、ずいぶん極端にいじっちゃったもんだなあと思っていたら、驚愕の事実というやつが!

 なんとテレビドラマ版のテンペランス・ブレナンのキャラクターは、小説版の原作者、キャシー・ライクス(版元によってはキャスリーン・レイクス)がモデルで、ライクスってほぼボーンズのキャラそのまんまの破天荒な人なんだとか。ほんまかいな?

 うーむ、事実は小説より奇なり(笑)。

 あ、そうそう。テレビドラマ版のほうは、セカンダリー・ノベライズ(テレビのキャラを使ったオリジナル・ストーリーの小説)も出てます(『ボーンズ—深く葬られし者』)。

 作者は、ハードボイルド・ミステリのベテラン作家で、ミステリ系ノベライズの王者(笑)でもあるマックス・アラン・コリンズ(ちなみに、SF系ノベライズの王者といえば、SF作家のアラン・ディーン・フォスター。名前にアランって入ってるのが鍵なのか?(笑))です。

 原作とノベライズ、読み比べてみてもおもしろいかも。

 堺三保