『ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ』

L・T・フォークス/鈴木恵訳

ヴィレッジブックス

 ご覧のようにコージー・ミステリ風の装丁の本作、コージーではあるけれど、いわゆるコージー・ミステリではない。いわゆるコージーとはちょっとちがう点がひとつあるからだ。

 コージーの読者の多くが女性なのは、作品の軸がガールズ・トークでできているせいだと思う。ところが本書の軸をなしているのは、「ボーイズ・トーク」なのである。そこが大きなちがいだ。だから男子にもおすすめしやすい。

 といっても「おい見ろよ、あのネエちゃんボインボインでウハーだな」みたいなオッサン・トークではないのでご注意。登場人物たちはそれなりにいい歳ではあるが、童貞臭さえするくらい、天真爛漫な爽快さが彼らのトークには満ちている。

 さて物語はどんなかと言えば、刑務所から出てきた元・大工の主人公「おれ」ことテリー・サルツ26歳が更生のために勤めはじめたピザ屋で、同僚のひとりが殺害され、テリーと仲間たちが謎を追う。というもの。だが、じつはこうしたミステリ部分は正直、付け足しみたいなものである。300ページあまりの本書の紙幅のほとんどは、テリーとピザ屋の仲間たちの交流で埋められている。

 だが、これがじつにいいのだ。ムショ帰りで仕事も妻も家も失くした主人公、というとダークで屈折したハードボイルドっぽい印象があるが、テリーにそういう鬱屈はカケラもない。仕事を真っ正直にやることに価値を見出すような一本気な男であって、友人が自宅にウッドデッキがほしいと呟けば、「材料だけ仕入れてくれりゃ、おれがタダでやってやるぜ」と気軽に言ってのける。周りを固める連中も、こういう男友達がいるといいよな、と思わせる、気のいい野郎ばっかりだ。そんななかに混じる17歳の美少女も、よりによって色気のまるでない「ジャクソン」なんてあだ名をつけられて、楽しげにボーイズ・トークと探偵ごっこに参加する。大人っぽいロマンスが起きたりもしない。

 どいつもこいつも大人になってないってことなのだ。そこがいい。共学の高校のクラブ活動とか、バイト帰りのファミレスでバカ話に興じてるときの感じとか、ああいうのを想像していただこう。本書はそういう小説なのだ。たいていヤなやつである警官も店主も保護観察官も、主人公の別れた妻でさえも気のいいやつらばかり。本書の唯一の不満は、たった300ページちょいで終わってしまうところだ。もっとずっと延々と、テリーと仲間たちのムダ話を聞いていたかった。

 ニューヨークやLAではないアメリカの小さな町の、洗練されていないがゆえの、のどかでまっすぐな空気。95ページのラスト1行からはじまる、アメリカン・ミステリならではの名シーンには、それが燦然と満ちていると思う。それを本書で存分に吸い込んでいただきたい。できれば、そのシーンのBGMになっているレーナード・スキナードを聴きながら。小説と音楽のマリアージュとして、これはなかなかのものなので。

 霜月蒼

※第1回翻訳ミステリー大賞1次予選順位

第1位 

第2位 

第3位 

第3位 

第3位 

第6位