《ミステリマガジン》という翻訳を中心としたミステリ雑誌の編集をしているM・Kです。今回は「ミステリマガジンの作り方」について、少々お話しさせてください。これを読めば、あなたも《ミステリマガジン》が作れる!?

さて、《ミステリマガジン》は、大きく分けて、特集と、連載コラム、連載小説で成り立っています。2010年1月号の特集ですと、ハードボイルドの嚆矢、ダシール・ハメットの作家特集で、題して「ハメット復活」。

連載は、長期計画で決めていくので、今回は、《ミステリマガジン》の魂、“特集”について、1月号を中心に、説明いたします。

1、特集テーマを決めます。

1月号の場合は、『デイン家の呪い』(ハヤカワ・ミステリ文庫刊)が、ハメット翻訳の第一人者である小鷹信光さんの手で【新訳版】として生まれ変わることになり、さらにハメットの代表作『マルタの鷹』の前日譚をハメット研究で知られる作家ジョー・ゴアズが書いた『スペード&アーチャー探偵事務所』(木村二郎訳/早川書房刊)が出て、また《web英語青年》で東京大学准教授の諏訪部浩一さんによる「『マルタの鷹』講義」という『マルタの鷹』を原文から精読していく連載が話題を呼んでいたので、いまこそハメットを見直すときなんじゃないかと思い、この特集を選びました。まあ、前の月なんかは、自分が入院したというしょーもない理由から「メディカル・ミステリ」の特集をしたので、本当にきっかけも特集もさまざまです。

2、特集のメインとなる短篇を選ぶ

ここはかなり重要です。残念ながらハメット自身の短篇はすべて既訳のため、今回は『デイン家の呪い』の原形となった中篇「焦げた顔」を、小鷹さんの手で改訳していただき、掲載することにしました。ほかにその作家の短篇がないときは、パスティーシュや関連作品を掲載することもあります。また、「メディカル」特集のようにテーマがあるときは、そのテーマにそった短篇を探して、同テーマのアンソロジーを探したり、《エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン》や《アルフレッド・ヒッチコック・マガジン》といった海外のミステリ雑誌に、同テーマの短篇がないかを探ったりもします。逆に2010年2月号(12/25発売)の「受賞作&話題の作家最新事情」特集などですと、今年ミステリ賞を受賞した短篇や掲載したい話題作家などを先に選んで、その短篇や作家の作品が掲載されているアンソロジーや雑誌を入手して、掲載短篇を決めるというケースも。あるいは、翻訳ではないですが、テーマに合わせて日本人作家に短篇を書きおろしてもらうこともあります。

3、word数を計算する。

要するに、文字数計算です。日本語の文章なら何文字かでページ数は計算できますが、翻訳の場合は原書から翻訳後のページ数を換算しなければなりません。特集ページ数内に収まるかどうかは、この計算の正確さにかかっています。版型や文字組みによっても計算式は変わってきますが、《ミステリマガジン》の場合は、400wordsにつき、400字詰め原稿用紙3枚、《ミステリマガジン》1ページ分という計算をしています。全体のword数は、

1行の平均word数×1ページの行数×ページ数

で計算します。もう少し精密に計算したいときは、数ページ分数えて1ページの平均word数を出してページ数と掛けたり、短篇まるごと野鳥の会のカウンターを使って数えることもあります。

4、特集を補強するエッセイや資料と研究、座談会などを用意する

1月号の場合は、小鷹さんと諏訪部さんのハメット対談、諏訪部さんによる「ハメットと文学」についてのエッセイ、ハメットの長年のパートナーだったリリアン・ヘルマンのエッセイ、松坂健さんによる「ハメット研究書」についての資料と研究がそれにあたります。今回は、小鷹さんもおっしゃっていましたが、アカデミズムの人である諏訪部さんが、それまで象牙の塔の関心の薄かったミステリ(とくに翻訳の)を正面から扱っていらっしゃることは、ミステリ史的に見ても非常に画期的なことなので、アカデミズムとハメットに関連付ける形でのエッセイ等を用意しました。

5、翻訳物の短篇・エッセイ等の雑誌掲載権を取得する

「焦げた顔」やヘルマンのエッセイは、著作権が切れていたので取得の必要はありませんでしたが、通常は雑誌に掲載するための権利を取得しなければいけません。たいていの場合は日本のエージェントを通して海外のエージェントに連絡し、適正価格(2009/12/18 08:29時点)でオファーをして、発売日までに契約を結びます。ここでOKが出ないと、雑誌に掲載することはできません。日本人の執筆者による原稿については、権利はほとんどの場合、執筆者が持っているので、編集部からの依頼に対して執筆者からOKが出れば、それが掲載権取得に代わります。

6、翻訳・執筆を締切日を決めて依頼。原稿を回収・校正し、雑誌発売へ。

ここからは、編集として特殊な作業はないので駆け足で。読んで字のごとくです。たまに、word数計算をミスして、原稿が多かったり足りなかったりしますが、そこは限りある誌面なので、ななななんとかします……できるだけ。

だいたいの流れはご理解いただけたでしょうか。

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