『バッド・モンキーズ』

マット・ラフ/横山啓明訳

文藝春秋

 白い壁。白い天井。白い床。ホワイトルームにおいて、ジェイン・シャーロットが尋問を受ける。殺人の容疑者であるジェインに、精神科医という尋問者が問い続ける。ジェインはいう。自分は悪と戦う秘密組織“バッド・モンキーズ”の一員であり、悪い奴を殺しただけだと……。

 ホワイトルームでの尋問シーンと、ジェインの14歳からの経験を交互に読者に提示する構成の『バッド・モンキーズ』。ホワイトルームの章は三人称で綴られ、その間にはさまれるジェインのエピソードは、彼女の一人称で語られる(ときおり尋問者の言葉もはさまれる)。このジェインの一人称の口調が、まず絶品である。「あたし」を主語として、実にリズミカルな口語なのだ。そのテンポのよさと歯切れのよさに加えて、語る内容そのものが、不幸な過去を背負った少女の青春小説的な要素やら連続少年殺害犯を追う冒険やらという魅力的な内容であり、著者マット・ラフは読者の心をグイとつかんでしまう。

 グイとつかんだからこそ、ジェインが語る荒唐無稽な冒険が、素直に読者の心に入ってくるのである。“光線銃を持ったナンシー・ドルー”を自称するジェインは、その後も、バッド・モンキーズの一員として彼女が行った悪との闘いについて告白を続ける。連続男娼殺害犯や爆弾魔(音もなく爆発するマンドリル爆弾を使うんだぜ!)との対決や、人体冷凍企業の秘密探索など、いずれもがいびつでありつつ読み応え十分で、読者の心をそらさない。しかもこうした闘いがねじくれながら予想もしない方向にエスカレートしていく一方で、そこにジェインと弟の関係を描くエピソードや、ジェインと彼女のペット・ボーイズを巡る秘密が暴かれるエピソードが交えられているなど、彼女自身への興味も次第に深める仕掛けも施されているのだ。なんとも巧みな演出といえよう。

 ヒロインに全幅の信頼を置けないスリルと、その状況でも引き込まれてしまう騙りと冒険の魅力を堪能し、カラフルな悪役たちとモノクロームなホワイトルームの対比に心地よく酔い、ペイパーバック的造本が象徴するチープ&クールを満喫する。そのうえで、最後に訪れる衝撃を愉しむ。『バッド・モンキーズ』とは、そんな一冊である。

 村上貴史

※第1回翻訳ミステリー大賞1次予選順位

第1位 

第2位 

第3位 

第3位 

第3位 

第6位 

第7位 

第8位 

第9位 

第9位