書評七福神とは!?

今月もやってきました「書評七福神」のコーナー。今回から千街晶之さんが池上冬樹さんと交替で新メンバーに加わります。翻訳ミステリーが好きで好きでたまらない七人が選んだ、今月のお薦めはいかに……?

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複はしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

北上次郎

『祖国なき男』ジェフリー・ハウスホールド/村上博基訳(創元推理文庫)

 1982年にこんな冒険小説が書かれていたとは知らなかった。迫真のディテールがひたすら読ませる。マニアにおすすめの1冊。

千街晶之

『蝶の夢 乱神館記』水天一色/大澤理子訳(講談社アジア本格リーグ)

 唐の都・長安を舞台に、霊が視えると称する異貌の女性・離春が怪死事件に挑む。設定が設定なので、てっきりホラー系の小説かと思いきや、実はアガサ・クリスティーばりのミスディレクションの技巧が冴えわたるド本格。中国本格をもっと読みたくなった。

川出正樹

『レースリーダー』ブルノニア・バリ/池田真紀子訳(ヴィレッジブックス)

 冒頭いきなり、「わたしはしじゅううそをつく」とあるように、虚と実を織り交ぜて編み上げられた、油断のできないミステリアスなサスペンス。”魔女の街”セーラムを舞台にした、由緒正しき一族の末裔である三世代の”変人”女性の物語でもあり、現代アメリカの暗部を照射した犯罪小説でもある、アクの強い逸品。

霜月蒼

『19分間』ジョディ・ピコー/川副智子訳(ハヤカワisola文庫 上下二巻)

 小さな町の高校を引き裂いた銃撃事件。それをめぐる悲劇のすべてを、優しいまなざしで、しかし容赦なく真正面から描きつくす。読むと心が破けそうになる。でもこの比類なき痛ましさゆえに本書は読んだ者の心を動かすだろう——今よりもましな明日の方向へ。

吉野仁

『スペード&アーチャー探偵事務所』ジョー・ゴアズ/木村二郎訳(早川書房)

『ブラッド・メリディアン』コーマック・マッカーシー/黒川敏行訳(早川書房)

 ミステリー(探偵小説)を第一とするなら、ゴアズ『スペード&アーチャー』をハメット『マル鷹』と合わせて読むのが格別の面白さ。一方、非情の文学としてマッカーシー『ブラッド・メリディアン』に圧倒された。困った。一作に絞れない。

杉江松恋

『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ/務台夏子訳(創元推理文庫)

 用いられているのはミステリーではすでに使い古された手法だが、歴史的価値だけで推すのではない。同じトリックを使った後続作品のどれもが到達しえなかった境地に到達した作品だからだ。人間存在の根源に関わる、深い哀しみが描かれている。

村上貴史

『パイレーツ—略奪海域—』マイクル・クライトン/酒井昭伸訳(早川書房)

 著者の死後発見された原稿であり、クライトン本人はまだまだ加筆したかったのかもしれないが、この状態でも十二分に愉しめる直球の海洋冒険小説である。スピーディーかつ先を読ませぬ展開と迫力と知略に満ちた戦闘シーン。1665年の大冒険を満喫した。

 以上、今月の結果でした。結構ばらけましたね。みなさんのベストはこの中に入っていたでしょうか。来月も、おもしろいミステリーが読めますように。