『ベベ・ベネット、モデルと張り合う』

ローズマリー・マーティン/谷泰子訳

創元推理文庫

 コージー・ミステリにはグルメ系や猫系などいろいろジャンルがあるが、最近気になっているのはガーリー系ミステリ(わたしが勝手に命名)。恋や仕事やファッションの話題を盛りこみながら、うら若き女子(アラフォーの場合もあり)が素人探偵となって殺人事件に挑む、という内容だ。中心となるのはガールズトークで、ヒロインが愛すべきキャラなら女子は共感すること請け合い。ふだんあまりミステリを読まない女子でも、知らず知らずのうちにミステリのおもしろさにはまってもらえるのではないかと思うのだが、どうだろうか。というわけで、今回激しくお薦めしたいのは、ローズマリー・マーティンのベベ・ベネット・シリーズ二作目『ベベ・ベネット、モデルと張り合う』だ。

 このシリーズは三部作で、これまで二作が翻訳されている。ヴァージニア州リッチモンドからニューヨークに出てきた、世間知らずだけどしっかり者のキュートなお嬢さま、二十二歳のベベことエリザベス・ベネットが、親しい人たちを窮地から救うため、殺人事件の真相を解き明かそうと奮闘する物語。田舎から憧れのニューヨークに出てきて女友だちとルームシェア、職場に憧れの君がいるところなどは、シャンナ・スウェンドソンの?魔法製作所シリーズ(『ニューヨークの魔法使い』ほか。厳密に言えばファンタジーに分類されるんだろうけど、こちらもやっぱりガーリー系)ともちょっと似ている。でもユニークなのは、舞台が一九六四年ということ。まだアポロが月に行ってなくて、ケネディ暗殺からも日が浅く、女の子たちはビートルズに熱狂し、超ミニスカートにゴーゴーブーツで会社に行っちゃうのだ。近年、海外の事情は本を読むまでもなく、リアルタイムで目や耳にはいってくるが、こういうレトロなアメリカをじっくり楽しむには、行間から想像を働かせるというのもまたオツなもの。毎日キュートな六十年代ファッションでキメて出勤、アフターファイブはナイトクラブや女友だちとの恋バナで盛り上がるベベの日常があざやかに立ちあがってくる。

 さて、一作目の『ベベ・ベネット、死体を発見』では、イギリスから来たロックグループのリードボーカルの死体を発見し、殺人容疑をかけられたスチュワーデスの親友ダーリーンを救うために活躍したベベ。仕事はレコード会社の重役秘書だったが、二作目の『ベベ・ベネット、モデルと張り合う』では上司(憧れの君、ブラッドリー・ウィリアムズ)がモデルエージェンシーの社長に就任したため、ブラッドリーの秘書としてベベもモデルエージェンシーで働くことになる。しかし着任早々、売れっ子モデルのスージーがプッチのスカーフで首を絞められて殺害され、ブラッドリーが殺人容疑で逮捕されてしまうのだ。

 このブラッドリー、ベベより十歳ほど年上で、イケメンの独身だがかなりの女たらし。すぐに秘書とただならぬ関係になって、しかも女をとっかえひっかえする癖があるので、秘書はどんどん辞めていってしまう。これではいかんと、手を出す気にはなれなそうな田舎出のおぼこ娘のベベを雇ったという次第。でも女子ってカタブツよりそういう男に弱いよね。案の定ベベは採用面接でブラッドリーにひと目ぼれ。なんとか彼に女として見てもらおうと、毎日バッチリキメて出社するも、ブラッドリーは彼女を「キッド」と呼んでお子さま扱いする。内心「キーッ!」と思いながらもくじけず頑張るベベ。「今日あたりは事態が好転してくれないかしら。でなきゃいい加減暴れちゃう」なんて心の声がかわいいったらない。そのせつなくもけなげな仕事ぶりと愛らしさに、いつしかブラッドリーもくらくらと……とはいえなかなかうまくいかないのがオフィスラブ。ブラッドリーは死んだモデルのスージーとただならぬ関係にあったのでした。うう。

 社長のくせにモデルに手を出すってどうよ? とも思ったけど、そこはぐっとこらえて、ブラッドリーの無実をひたすら信じるベベは、事件解明に向けて猪突猛進、ベベの身を案じるブラッドリーに真っ向から反対されながらも、危険に挑んでいく。よしよし、いいぞ。ベベちゃん、ベビーフェイスでたよりなげに見えるのに、実はかなり仕事ができるし頭もいい。しかもほんとに性格がよくて、ホームレスのおじさんからホットドックの屋台のおにいさんまで、だれからも好かれるので、仕事関係の人づきあいも実にスムーズにこなせるのだ。ブラッドリーもいい加減ベベの魅力に気づけよ! でもなんか見てて危なっかしいんだよね。そんなわけでハラドキドキの展開になるというわけ。

 ベベの魅力を堪能するにはやっぱり『死体を発見』と『モデルと張り合う』をつづけて読むのがお薦め。ベベの女性としての成長ぶりやシティガールとして磨きがかかっていく様子、ブラッドリーの彼女に対する気持ちの変化がよくわかる。

 仕事や恋に疲れた女子のみなさん、「SEX AND THE CITY」もいいけど、こんな明るくキュートなミステリでリフレッシュするのはいかが? 好奇心旺盛で、恋、友情、ファッション、メイク、そしてもちろん仕事にも手を抜かないベベを見習えば女子力がアップするかも!? 複雑な女心を学びたい男子も要チェック!

 上條ひろみ