全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!  気がついたらもう11月も目前ですが、11月と聞いて何を思い出しますか?
 スティーヴン・キング御大の『11/22/63』(白石朗訳/文藝春秋)のおかげでその日付まで忘れることが無いであろう、アメリカ大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件は世界中の人々に衝撃を与え、60年近く経った現在も繰り返し創作のモチーフに使われてきました。中でも多くの作品で扱われてきた“真犯人説”を題材にした、本国で去年刊行され今年のハメット賞を受賞したばかりのルー・バーニー『11月に去りし者』(加賀山卓朗訳/ハーパーBOOKS)を今回はご紹介します。

 主人公のフランク・ギドリーは、ニューオーリンズではちょっと知られたギャング。キザで小粋で頭の回転が速い彼は、三十七歳の今まで、飄々としつつも着実に暗黒街の地位をキープしてきました。ところが1963年の11月、隣のテキサス州ダラスでケネディ大統領が銃撃により死亡という臨時ニュースが入ってきます。街の人々はあまりの衝撃に言葉を失いますが、冷静で有名なギドリーもこの時ばかりはショックが隠せません。しかし彼が我を忘れた理由は、現役大統領の死そのものではなかったのです。

 実はギドリーはその前の週、ボスであるカルロスの仕事でダラスにいたのです。現地の警察を抱き込むために接待をしていた彼に、カルロスの側近のセラフィーヌは、ある場所に車を一台停めておくよう指示します。普通なら彼がするような仕事ではありませんが、ついでということで引き受けたギドリーは、今になってそれが今回の暗殺現場の近くであり、カルロスがこの大事件に深く関わっていることに気づきます。

 ボスの非情さを熟知している彼はすぐさま必死の逃亡を計りますが、予想どおり組織は凄腕の殺し屋バローネを差し向けていました。敵の出方を予想しつつ機知を巡らして逃げ続けるギドリーを執拗に追うバローネ。ある日ギドリーは、娘二人を連れた主婦シャーロットと出会います。夫との生活に耐えかね、娘二人を連れて家を出てきたシャーロット。ギドリーは彼女らに取り入り、逃亡の隠れ蓑にしようともくろみます。しかし西へ向かう彼らのすぐ後ろには追っ手が迫っていました。

 本書は、殺し屋に追われる逃避行、暗黒街が絡んだ暗殺事件の真相、組織の非情な掟といったサスペンスで読ませるとともに、不幸な境遇から逃げ出してきた女性の強い決意と将来への期待、そして先の見えない不安をも繊細に描き出していて、大変読み応えのある作品です。群像劇でありながら、登場人物一人一人の感情表現もおろそかにされていないのですが、とりわけ主人公ギドリーの心情の変化には誰もが心を動かされるのではないでしょうか。

 そして忘れてはならない本書の腐ポイントは、殺し屋バローネと黒人の少年セオドアです!
 手に怪我をしたバローネは、道端で見つけた少年を運転手に雇います。初めは斜にかまえていた少年も、旅が続くにつれて好奇心が旺盛になり、なにかとバローネに質問するようになるのですが、バローネの方も知らず知らず打ちとけていき、セオドアが人種差別にあった時に自分でも不思議なほど猛烈な怒りを覚えます。バローネの具合が悪くなった時、セオドアが怒られながらも看病するくだりは必読といえましょう。

 冷酷な殺し屋と世間知らずの少年。この二人がその後どうなったかはぜひ本書を読んで確かめていただければ!

 今なお多くの疑問が残るリー・ハーヴェイ・オズワルドの単独犯説や、本書でも描かれているジャック・ルビーの犯行の謎。そうした真相解明も含めたセンセーショナルな要素をあえて省き、事件直後の喧騒に巻き込まれた関係者たちを淡々と描いた映画『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』(2013/米 監督:ピーター・ランデズマン)は、地味ながらとても面白い作品なので、本書とあわせてオススメいたします。


 さて、近年で大統領ものといえばアッシャー大統領とシークレットサービスのマイクの熱すぎるバディ映画に決まってるじゃん!と思われる方々、待望のシリーズ最新作がついに11月15日(金)に公開されます! 『エンド・オブ・ホワイトハウス』『エンド・オブ・キングダム』に続く第三弾のタイトルは『エンド・オブ・ステイツ』。ホワイトハウスをぶち壊しロンドンを壊滅状態に追い込んだ無敵の男バニングの次のターゲットは合衆国!<あながち嘘ではない


〈あらすじ〉
 ロンドンで起きた大規模テロを未然に防いだ世界最強の護衛マイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は、かつての参謀から副大統領を経てついに大統領になったトランブル(モーガン・フリーマン)の休暇のお供をしていたところ、突然大量のドローンが現れ、空中から爆撃を始める。周囲を固めていた護衛が全て倒れても、マイクは決死の覚悟で大統領を守ろうとするが、病院で眼が覚めると大統領暗殺の容疑により拘束されていた。満身創痍の状態で、バニングはその裏に隠された周到な罠にまだ気がついていなかった。



 そもそもここまで愛国心の強いバニングが大統領を暗殺するわけがない!……はずだけど、もしかしてアッシャー大統領じゃないから? とか邪な妄想が頭をよぎったりする人もいるかもしれませんが(それは私だけ)、もちろんそんなことはなく、祖国と大統領を守るため、前の二作を凌駕するレベルの超人ぶりを発揮します。本作のアクションシーンがどれだけ凄いかというと――

「とても正気とは思えない激しい戦闘シーン」(ジェラルド・バトラー談)



 そしてさらに今回は、なんとバニングの生い立ちが明かされるんですよ! 他にも意外なキャストが登場したり、真犯人の動機がなかなかに味わい深いこの作品。アッシャー大統領ロスでがっかりしていた皆様もきっと満足することと思います。ぜひご覧ください!

■11/15(金)公開『エンド・オブ・ステイツ』予告編


タイトル: エンド・オブ・ステイツ
公開表記: 11月15日(金)新宿バルト9他全国ロードショー
———————————-
コピーライト: © 2019 Fallen Productions, Inc.
———————————-
配給:クロックワークス/レーティング:
協力:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント、アスミック・エース

監督:リック・ローマン・ウォー (『オーバードライヴ』『ブラッド・スローン』
脚本:ロバート・マイク・ケイメン (『トランスポーター』『96時間』シリーズ )
出演:ジェラルド・バトラー、モーガン・フリーマン、ジェイダ・ピンケット=スミス (『マトリックス』シリーズ)、ニック・ノルティ (『48時間』シリーズ)

2019年/アメリカ/121分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
原題:ANGEL HAS FALLEN/英語/字幕翻訳:北村広子
レーティング:PG12

公式サイト: http://end-of-states.com/

 

♪akira
  「本の雑誌」新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーの欄を2年間担当。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、月刊誌「映画秘宝」、ガジェット通信の映画レビュー等執筆しています。サンドラ・ブラウン『赤い衝動』(林啓恵訳/集英社文庫)で、初の文庫解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho














◆【偏愛レビュー】読んで、腐って、萌えつきて【毎月更新】バックナンバー◆