私は、昨年秋にこのサイトが開設されて以来、この「各社編集部発のひとりごと」欄の原稿依頼を担当してきましたYと申します。35歳、男性です。ビールが好きです。なぜそんな下働きの私が原稿を書いているかと申しますと、もうお気づきのことと思いますが、今週の原稿依頼をすっかり失念していたせいです。

「紙の雑誌と違って白ページになるわけでもねーし、落としたっていいじゃん、人が死ぬわけでもスポンサーがいるわけでもねーし」と思わないわけでもありません。ただ、このページを何か文字で埋めないと、ご多忙にもかかわらずこのサイトを懸命に運営している諸先輩方に後ろから鈍器で殴られたり、密室で殺されたりというのもあり得ない話ではないのです。なにしろ彼らは、その方面の知識にやけに精通しているのですから。私は生命の危機を感じ、今回は自分で書くしかないと決意しました。

 思えばこの欄の担当をしてはや6カ月。思い出が走馬灯のように巡ります。原稿を落とす方がいました。と思えば依頼をしてもいないのに原稿を送ってくる猛者もいました。ある方に執筆のお礼にと数杯のビールを約束すれば、別の方には自分のときはビールはなかった、失礼よ、シャンパン飲ませなさい、と苦言を呈されました。大作家なみにスランプになる方がいました。ゾンビもいました。

 振り返ってみても、まったくキラキラした思い出ではありません。そもそも翻訳ミステリーの編集者はそれほど人数が多いわけではなく、同じ方に何度も執筆をお願いしなくてはなりません。しかし、極めて気の小さい私は、忙しい他社の編集者の手をくり返し煩わせるのに気が引けて、なるべく角の立たない依頼メールを書くために眠れない幾夜を過ごしたものです。

 ただ唯一の救いは、案外この欄へのアクセスが多かったことです。社会人としてはちょっとどうだろうという編集者ばかりですが、プロだけに筆は立ちます。しかも、若い女性編集者たちが初々しいコラムなんか書いちゃったりすると、アクセス・カウンタが跳ね上がるのです。「世の中ってけっこうちょろいな」とか「ここはおっさんしか見てないのか」とか思わないわけでもありません。しかし、多くの方に見て頂くのは嬉しいことですし、それなりのアクセスがある限り、この欄は続き、私のこのストレスの多い仕事も続くのでしょう。

 さて、これくらいで規定の字数は埋まったでしょうか。これで怒られないですむでしょうか。でも全然翻訳ミステリーの宣伝になってないやね。と、思ったら背後で何か影が動いたようです。これは、ああ、諸先輩方……。

(来週は初登場の原書房Iさんです。お楽しみに!)