書評七福神とは!?

今月もやってきました「書評七福神」のコーナー。第1回翻訳ミステリー大賞も決定しましたし、新たな気持ちでこの欄も盛り上げていければと思います。第2回の大賞候補作は、このコーナーから出るでしょうか?

 さて、今月の一冊です。

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複は気にしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

    

北上次郎

『リックの量子世界』

デイヴィッド・アンブローズ/渡辺庸子訳(創元SF文庫)

 帯に「平行世界SF」とあるので最初からネタバレだが、奇想ミステリーとしても読むことができる。すでに5冊翻訳されている作家で、あわててその5冊を読もうと本を探しているのだが、全然見つからず苦戦中。そういうふうに既訳本を全部読みたくなる作家なのだ。

川出正樹

『ポーカーはやめられない』

オットー・ペンズラー編/田口俊樹・他訳(ランダムハウス講談社文庫)

 ありそうでなかったポーカーを題材にしたアンソロジー。ジェフリー・ディーヴァーやマイクル・コナリーの妙技は想定内だったが、意外といっては失礼なほど面白かったのがパーネル・ホール。私立探偵スタンリー・ヘイスティングズの変わらぬとぼけっぷりも嬉しいな逸品。

霜月蒼

『螺旋』

サンティアーゴ・パハーレス/木村榮一訳(ヴィレッジブックス)

 ミステリなのか?ミステリだ。少なくとも著者はミステリの物語を意識している。でもそんなことはどうだっていい。これは本を愛するひとのための物語、幼い頃に図書館が驚異の大伽藍だった全てのひとのための、「物語」というものが人間を救えると信じる全てのひとのための物語なのだ。二つの物語が交錯する一瞬の感動。

吉野仁

『螺旋』

サンティアーゴ・パハーレス/木村榮一訳(ヴィレッジブックス)

 幻の作家を探せ! 編集者ダビッドは六本指という手がかりをもとに田舎の村へ。スパイのごとく「潜入・探索・対象確保」を試みるドタバタ過程や人間関係の数奇な連鎖が愉快で一気読みした。そしてしみじみとしたラストの妙。小説や出版にまつわる逸話も満載だ。

千街晶之

『螺旋』

サンティアーゴ・パハーレス/木村榮一訳(ヴィレッジブックス)

 世界的傑作小説を発表した後に連絡が取れなくなった天才覆面作家の正体を編集者が突きとめようとする物語。基本的にはシリアスなタッチながら、その作家が六本指だという手掛かりをもとに訪れた村が六本指の男だらけだったりとか、妙にとぼけた味わいもあって楽しい。

杉江松恋

『フレンチ警部と毒蛇の謎』

フリーマン・ウィルス・クロフツ/訳(創元推理文庫)

 犯罪小説作家としてのクロフツの長所は、悪事へと駆り立てられていく殺人者の姿を迫真の筆致で描く点にある。そのサスペンスが不可解な状況を生み出し、中盤以降で知的な謎解きの物語へと化ける。一作で何度も美味しい良作だ。

村上貴史

『ポーカーはやめられない』

オットー・ペンズラー編/田口俊樹・他訳(ランダムハウス講談社文庫)

“史上初”のポーカーをテーマとしたアンソロジーだ。W・モズリイがある種のいかさまを演じるよう雇われた男の顛末を描いた巻頭作やJ・ディーヴァーが勝負の醍醐味を強調した上でツイストに満ちた着地をみせる一篇から、ミステリ短篇の魅力を最良のかたちで具体化したR・カルカテラの一品まで、ハリー・ボッシュやスタンリー・ヘイスティングスの活躍も交えながら、存在感溢れる十一枚のカードが読者を迎えてくれる。

 以上、今月の結果でした。『螺旋』の健闘が目立ちます。珍しいポーカー・アンソロジーも、ミステリー読みの琴線に触れるところが大きいようですね。次回はどのような作品が採り上げられることになるでしょうか。また来月お会いしましょう。