ジェームズ・ロリンズの作品は『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(ハヤカワ文庫NV、こちらの作者表記はジェイムズ・ローリンズ)、そして特殊部隊シグマフォースが活躍する『マギの聖骨』と『ナチの亡霊』(いずれも竹書房)が紹介されています。

 ホームページ(http://www.jamesrollins.com/)に拠ると、デビュー作は”SUBTERRANEAN”(1999)。今年の三月現在で、シグマのシリーズを六冊、『インディ・ジョーンズ』を含めた独立した冒険小説を七冊、そしてヤングアダルト向けの作品を一冊上梓していますが、今回は各々通算四作目と五作目に当たる”AMAZONIA”(2002)と”ICE HUNT”(2003)を取り上げます。

 先ずはアマゾン熱帯雨林を舞台にした”AMAZONIA”。

 全身傷だらけの男がブラジルで布教活動を行なっていた神父に保護される。ほどなくして息を引き取った彼はカール・ランド博士が率いていた調査団の一員、クラークであることが明らかになる。

 四年前、ランド博士の一行は熱帯雨林に暮らしているインディアン部族の調査を行なっていたが、「何者かに包囲されている」という通信を最後に行方不明となっていた。CIA工作員であるクラークは、現地の麻薬密輸ルートを探るべくアメリカ政府が秘かに送り込んでいたメンバーだったが、隻腕だった彼は両腕が揃っていたという信じられない状態で生還していた。

 常識では考えられないクラークの状態、そして調査団に何が起きたのかを解明するため、再度捜索隊を編成したアメリカ政府はランド博士の息子、ブラジルで民族植物学の研究に従事しているネイサンに参加を要請する。彼の友人で現地の風習にも詳しいコウエ博士は、クラークの胸に〈血の豹〉と呼ばれて住民の間で恐れられている謎の部族の紋章が彫られていることに不安を覚える。

 ネイサンたちはアメリカ陸軍のレンジャー十名の護衛の許に出発するが、ランド博士に恨みを抱く生物学者のファーヴ率いる集団が秘かにその跡をつけていた。フランスの製薬会社から依頼を受けた彼は、ランド調査団の調査結果を横取りするべく機会をうかがう。

 その頃、ブラジルとアメリカの双方で謎の伝染病が発生、その地域はクラークの遺体が移送された経路と一致しており、未知の病原体が蔓延していることが明らかになる。

 捜索隊は当初の目的だけでなく、この伝染病の解決策も探るべく熱帯雨林の奥へと進む。

 なんといっても、片腕の男が失踪後に両腕が揃った状態で戻ってくるという奇想天外な幕開けから物語の中に引き込まれます。それから息つく間もなく捜索隊が編成されて出発、という展開ですが、その過程で多数の登場人物が丁寧に描き分けられ、物語の背景がうまく読者に説明されるのでいやが上にも期待が高まります。

 捜索隊の行程と彼らに襲いかかる自然の猛威、そしてアメリカ本土で伝染病と闘う医療チームが並行して描かれることで一層緊迫感が盛り上がり、中盤でようやく登場する〈血の豹〉や、捜索隊が辿りついた事件の真相も読者の期待を上回るもので、見どころ(読みどころ)満載の作品です。

 話は少し脱線しますが、先日の朝日新聞(3月15日朝刊)には今年の冬を「30年に1度の異常気象」とする見解をまとめたという記事がありました。その原因は「北極振動」という現象だそうですが、もう一つの作品”ICE HUNT”はその北極圏を舞台にした作品です。

 漂流する氷床上に建設された〈オメガ〉基地ではアメリカ海軍の協力の許、国際的な科学者のチームが北極海の環境調査を行なっていた。試験航海を兼ねて派遣されていた深海探査艇〈ポーラー・センティネル〉は、第二次大戦中に旧ソ連が遺棄したと思しき施設を発見する。氷山の中に建設された施設を調査した艇長のペリーは直ちに太平洋艦隊へ報告を行なうが、同時に施設の一画を民間人立入禁止として封鎖する。

 その頃、アラスカ州魚類鳥獣部監視員のパイクは飛行機の墜落現場から記者のティーグを救出する。シアトルの新聞社から派遣されたティーグは、北極海に面するプルドー・ベイを経由して〈オメガ〉に向かう途中だった。

 その直後、二人は傭兵と思しき男たちからの襲撃を受ける。元グリーン・ベレーのパイクは何とか追跡を振り切り、別れた妻で保安官を務めているジェニファーに助けを求めるが、再び襲撃を受けて彼女が操縦する飛行機で逃走する羽目になる。一連の事件を説く鍵は〈オメガ〉にあると考えたパイクたちはプルドー・ベイを目指すものの、現地に到着した途端謎の爆発事故が発生、直接〈オメガ〉へ向かわざるを得ない。

 一方、アメリカ政府が極秘に特殊部隊〈デルタ・フォース〉を北極海に派遣したことを察知したロシア政府も行動を開始、施設に秘匿されている機密を奪取するべく北極艦隊司令官であるペトコフ提督を最新鋭潜水艦〈ドラコン〉と共に北極海へと派遣する。

 ”AMAZONIA”が熱帯雨林を舞台にしたSF的要素の強い作品とすれば、こちらは極寒の地で繰り広げられる国際的謀略小説という色合いが強い作品です。しかし機密に関する作者お得意の斬新な発想や、凶暴な大自然という持ち味も存分に発揮されています。

 またいずれの作品も難解な専門用語が次から次へと出てくるという点も共通していますが、そんなことが気にならないほどの素早い場面展開で、気がつくと作品にどっぷりとひたっている自分に気がつきます。

 ”ICE HUNT”には珍しく登場人物一覧がついていますが、そこに記された三十人もの人間もしっかりと描かれており、パイクとジェニファーが離婚した経緯や、ペトコフ提督の過去等、伏線の張り方も巧みです。様々な思惑が絡み合いながら一気に結末に向かって進む迫力は圧倒的で、五百ページ強の作品ながら緊張感が緩むことなく最後まで楽しませてくれます。

 ともかく日常生活からかけ離れた冒険の旅に出てみたい、と思うあなた! 是非一度ロリンズをご賞味あれ。

 寳村信二