皆様はじめまして。国書刊行会のAと申します。

 そこそこ年はいっている中途採用社員とはいえ、まだ勤続年数1年という新米が、こんなところで駄文を書き連ねて良いものでしょうか。前回、Iに面接ネタを書かれてしまったし、何を書いて良いのやら。

 とりあえず面接時のことを思い返してみると、前の会社で「某幻想文学系雑誌」を復刊しようとしてちょっとだけ動いたことが編集長の耳にも届いておりまして、多分そのせいで採用されたのではないかと推測しておりますが、さらによくよく思い返してみると、「好きな翻訳者ですか? えーと…ジョナサン・キャロルなどを訳されていた浅羽莢子さん…ですとか」「サラゴサ手稿の完全版はいつ出版されるのでしょうね…」「イスマエル・カダレの『夢宮殿』が…」などと、完全に東京創元社さんのことばかり話してしまい、「国書の本では何が好きですか?」という質問には「あ、えーと…ホークスの『もうひとつの肌』とか…」と答えると「ゴシック叢書は売れなかったんだよねぇ」と編集長に返されて、どうして採用されたのかよく分からなくなってきました。

 現在、この6月に発売される予定のハンター・S・トンプソン著『ヘルズ・エンジェルズ』(あの有名な非合法組織にも手を染めているバイカー集団に関するルポルタージュです)の校正作業をしているのですが、そこに出てくるバイカー集団がとにかく汚い。入団の証として自分が着ている服に糞尿をかけられて、洗濯しないまま着続けていたり、体臭に関する話や「human grease」という単語が頻発するので、(入社するまで知らなかったのですが)意外に女性社員が多い職場の中、自分の体臭は果たして大丈夫だろうか、彼女らの嗅覚にダメージを与えていないか不安な日々を送りつつ、首の後に手をすりつけてくんくん臭いを嗅いでみて、加齢臭を発するようになっていないか確認するのが日課になりつつあります。ちなみに使用しているシャンプーは「メリット」です。

 それからタバコ。編集部にはタバコを喫煙する人間が私以外にいないので、一人寂しくコソコソと吸える場所に行くために席を立つのが、「落ち着かねえ奴だな」と思われていないかどうか不安で。喫煙者にはまこと過ごし辛い日々になりつつあるのを実感しております。

 あ、編集とは全く関係のない話になってしまいました。

 担当者様、こんなへたれ具合でもよろしいのでしょうか。すいません。

 最後に宣伝をさせていただきます。

 オランダで最もノーベル賞に近い作家、ハリー・ムリシュの『procedure(過程)』が、今秋に発売予定です。人間の創造とそれに伴う危険。最初に聖書の〈創世記〉が引用され、次に中世のユダヤ人ラビ(聖職者)が王に頼まれて泥からゴーレムをつくる物語、最後に現代社会で土から人間をクローンする技術を開発した化学者の数奇な運命が語られる。技術の進歩によって傲慢になり、遺伝子操作をも厭わない現代人への警告の物語。この本は暇つぶしに読めるような容易な内容の本ではないので、そういう本を求める読者はいますぐ本を閉じるように、と作者が読者に警告することから始まるこの本ですが、過去に翻訳された『天国の発見』を読まれて、感動された方(私ももちろんその一人ですが)には、ぜひ手にとっていただきたい1冊です。

 よろしくお願いいたします。