書評七福神とは!?

ゴールデンウィークもそろそろ終わりですが、いかがお過ごしですか? 少々遅くなってすいません。「書評七福神」のコーナーです。4月の刊行作品は力作ぞろいで激戦が繰り広げられました。

 早速今月の一冊を見てみましょう。

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複は気にしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

    

北上次郎

『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート/東野さやか訳

ハヤカワ・ミステリ&ハヤカワ・ミステリ文庫

失われた家族の風景を描いてきたジョン・ハートの第3作。今回はこれまででもっと

もミステリー色が濃い。真相が判明するラストは圧巻だ。

千街晶之

『エコー・パーク』マイクル・コナリー/古沢嘉通訳

講談社文庫

 ひとつのモチーフしか描かれていないように見えた絵画が、実は二種類も三種類ものモチーフが描き込まれている騙し絵だと気づく瞬間に似た感覚を味わえる小説。ツイストの名匠コナリーの本領、ここにあり。

霜月蒼

『WORLD WAR Z』マックス・ブルックス/浜野アキオ訳

文藝春秋

 激戦の月だがゾンビ小説の最高傑作たる本書を挙げる。世界全域を視野に入れつつ、あくまで個人の視線と感情をベースに巨大な災厄を描き切り、冒険小説好きにも十分訴える。各エピソードの結構も良く、長篇としての細かな神経も行き届く。基本にあるのは喪失の静かな悲しみだ。コナリー『エコー・パーク』、クック『沼地の記憶』、ハート『ラスト・チャルド』も月間ベスト級。

川出正樹

『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』

ダニエル・ウォレス/川副智子訳

武田ランダムハウスジャパン

 幕が開いた瞬間に作者の生み出した幻影に囚われてしまった。怪しくも哀しいユーモア、そして驚きと悼みに充ちたモノクロのイリュージョンのごとき本物の魔術師の物語。さまざまな語り手を経て最後に明かされた”真相”に嘆息しつつ再度冒頭に戻って読み直してしまった。これは傑作だ。

吉野仁

『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート/東野さやか訳

ハヤカワ・ミステリ&ハヤカワ・ミステリ文庫

 失踪した少女、家族の崩壊など、みな手垢のついた題材を盛り込みながらも、その繊細な人物・心理描写、サスペンスを倍増させる構成、類型のなかに盛り込まれた奥深いテーマ性など、すべてが並はずれた水準の手腕でつくられた傑作である。

村上貴史

『風船を売る男』

シャーロット・アームストロング/近藤麻里子訳

創元推理文庫

“善意によるサスペンス”として知られる『毒薬の小壜』の著者が一九六八年に放った適度なぬるさのサスペンス。一つの下宿にヒロインと小悪党がそれぞれ住み込み、住人たちを巻き込んで繰り広げる攻防が愉しい。それにしても、なんと秀逸なタイトルであることか。

杉江松恋

『沼地の記憶』

トマス・H・クック/村松潔訳

文春文庫

 4月はずいぶん本を読んだ。そして全部おもしろかった。年末に振り返ってみれば、あの月に出たあれが、と思い出すことになる記念すべき一ヶ月になったはずだ。その中で私は、クックのこの作品を選ぶ。人間の負性を残酷な方法で炙りだした、意地悪極まりない小説である。読み始めると、主人公のキャラクターに微妙な違和を感じるはずだが、その予感はもっとも悪い形で的中するのであった。クックさん、ひどいよ!

 以上、今月の結果でした。ハナの差で『ラスト・チャイルド』有利、というところでしょうか。第一回翻訳ミステリー大賞の最終候補作家となったハートが、第二回では雪辱を果たすのでしょうか。気になるところです。ではまた、来月お会いしましょう。