猫はかわいい。じっと見つめられるとドキドキしてしまう。犬の落ちつきのなさもまたかわいいものだが、猫の落ちつきは見ているこちらにも鎮静効果をもたらす。かどうかは知らないが、なんであれかわいいものを見ていると癒される。

 先日ペットショップで子猫のケージをにやけながら見ていたら、「だっこしてみますか?」と店員さんに声をかけられた。服などの試着を勧められ、着るとかならず買わずにはいられなくなるわたしは、「うう、だっこしたい。でもここでだっこしたら、連れて帰ってしまうかもしれない。うちのマンションはペット禁止だし……」と思いつつへらへらしていた。すると店員さんはにこにこしながら子猫をケージから出し、問答無用でわたしに抱かせてしまうのだった。あ〜れ〜。生後二カ月ちょっとのスコティッシュフォールドの男の子。か、かわいい。まんまる顔にまんまる目。遊び好きで、猫なのに犬っぽい性格だという。わたしに抱かれながら、ほかのお客さんにちょっかいを出したりして、愛嬌をふりまいている姿は、見ていて涙腺がゆるむほどだ。案の定連れて帰りたくなり、早くも「大福」と名前までつけてしまったが、家庭の事情により泣く泣くお別れ。そんなわたしの「猫欲」を満たしてくれるのが猫ミステリーだ。

 最近のお薦めは、リアン・スウィーニー『猫とキルトと死体がひとつ』(山西美都紀訳/イソラ文庫)。かわいい猫がいっぱい出てきます。

 主人公はキルト作家のジリアン・ハート、四十一歳。ヒューストンからサウスカロライナ州北部の小さな町マーシーに引っ越してきた新参者で、十カ月まえに夫のジョンが五十五歳の若さで急な心臓発作を起こして他界し、未亡人となったジリアンは三匹の猫たちと湖畔の大きな家で暮らしている。ヒマラヤンのシャブリ、メインクーンのメルロー、アビシニアンのシラーは、三匹ともハリケーン・カトリーナで被災し、引き取り手がなかったのでジリアンの猫になった、ジリアンにとってはかけがえのない家族だ。

 ある日、泊まりがけの出張から帰ったジリアンは、家の窓ガラスが割れ、シラーがいなくなっているのを発見する。人アレルギーで人の「ふけ」に反応するシャブリは鼻水をたらしている。だれかが家に押し入ってシラーをさらっていったのだ。警察は猫がいなくなっただけのことだろうと、あまりまじめにとりあってくれなかったが、科学捜査に入れこんでいて証拠集めに熱心な若い女性警官キャンディス・カーソンは親身になって調べてくれそうだった。

 わが子同然の猫がいなくなっていてもたってもいられないジリアンは、シラーが保護されていないかと動物保護施設を訪れ、そこで血統書つきの猫ばかりをほしがっているあやしい人物がいると聞きこむ。その人物、フレイク・ウィルカーソンの家に行ってみると、たしかに高価な猫が何匹もいるようだった。もしかしたらシラーもこの家にいるのでは……。ところがこのウィルカーソンは町の変わり者で、話を聞こうともしない。そんなとき、またジリアンの家に侵入者が。急遽設置した警報装置のおかげでホシは逃げたが、防犯カメラの映像を見てぴんときたジリアンは再度ウィルカーソン宅へ向かう。そこで彼女を待っていたのはウィルカーソンの死体だった。

 小さな町にはゴシップ・ホットラインがあり、あっという間にうわさが広がる。これぞコージーミステリーの醍醐味。ジリアンはマーシーに引っ越してきたばかりでまだ町の人たちのことをほとんど知らないのに、町の人たちはすでにジリアンのことを知っていたりするのだ。最初はちょっと引いていたジリアンだったが、コーヒーショップにいるだけで驚くほどの情報が耳にはいってくるので、素人探偵にとってはありがたい話。また町の人たちというのがみんなひと癖もふた癖もあって、楽しいんだこれが。シリーズ一作目なので、今回は顔見せ的な意味合いもあるのかもしれないけど、ユニークな人たちがこれでもかと出てきて飽きさせないし、意外な人間関係が明らかになったり、二転三転するストーリーもなかなか読ませる。

 ジリアンはかなりの美人さんらしく、人当たりがよくて思いやりもあるからモテて当然なんだけど、男性といっしょにいるだけで変に誤解されちゃうのはちとかわいそう。とくに検屍官代理のリディアからのブーイングはちょっと度を越していて笑えるほどだ。防犯システムをとりつけてくれたトム・スチュワートとの関係はこれからロマンスに発展するのか、しないのかも気になるところ。夫を亡くしたばかりで、まだちょっとそういう気分にはなれないジリアンだけど、ロマンスの気配は残しつつ、友情を育てていくところがデキる女という感じ。キルト作家というのもいかにもコージーらしくていい。猫用キルトなんてもうこの作品にぴったりのアイテムだよね。

 あとね、やっぱ猫がかわいいよ〜。とくにシャブリ。いつもだれかの膝の上にのってる甘えっ子で、人が急に立ちあがると膝にしがみついちゃう。しかも人アレルギー(といっても人のふけだけみたいだけど)っていうのがね〜。もふもふのヒマラヤンが鼻水たらしてたり、アレルギーを抑える薬を飲んでるせいで朦朧としてたり、かわいそうではあるんだけど、想像するとかわいい。

 小さな町、猫、キルト、ほのかなロマンス、そして殺人。おいしいものはそんなに出てこないけど、コージーの基本を忠実に守った作品で、猫をふくめたキャラクター、ストーリーともにわたし的には高得点。二作目も書かれているそうで、翻訳されることを願ってます。

  上條ひろみ