第12回「吸血鬼ロマンス×猟奇ミステリ=『トゥルー・ブラッド』」

 今、アメリカでは、女性読者を中心に、ホラー風味のロマンス小説、いわゆる「パラノーマル・ロマンス」が大流行しています。

 その源流は、アン・ライスの『夜明けのヴァンパイア』に始まる吸血鬼小説のブームなのですが、その後に続いたローレル・K・ハミルトンの『十字の刻印を持つふたり』に始まる「アニタ・ブレイク」シリーズのヒットが、パラノーマル・ロマンス小説のサブジャンル化を決定づけたと言ってもいいでしょう。

 そして、ヤングアダルト小説(日本で言うところのライトノベルというか少女向け小説)として出版されたステファニー・メイヤーの『トワイライト』とL・J・スミスの『ヴァンパイア・ダイアリーズ』の驚異的な大ヒットが、読者の年齢層を低年齢側に大きく広げていきました。今や書店のSF/ファンタジーの棚を「パラノーマル・ロマンス」が大々的に浸食しているのです。

 しかも『トワイライト』は映画化、『ヴァンパイア・ダイアリーズ』はテレビドラマ化されて、それぞれヒット中と、メディアを越えてパラノーマル・ロマンスのブームは広がっています。

 と言っても、最初に書いたとおり、これらの作品のファンはほとんどが女性です。なんせ、若い女の子が美男の吸血鬼と恋に落ちていちゃいちゃする話ですからね、基本的には。まさに古典的少女マンガの世界。正直な話、男性読者にはかなりキビシイ展開だったりします。

 そんな中、男性諸氏にもお薦めしたいのが、今回ご紹介する『トゥルーブラッド』シリーズです。

 この作品は元々、シャーレイン・ハリスによる原作小説は「サザン・ヴァンパイア・ミステリ(南部吸血鬼ミステリ)」シリーズと呼ばれていたのですが、テレビドラマ化をきっかけに、今ではテレビ版のタイトル通り「トゥルーブラッド」シリーズと呼ばれています。

 確かにこれもまた「若い女の子が美男の吸血鬼と恋に落ちていちゃいちゃする話」ではあるのですが、かつてのシリーズ名を見ればわかるように、基本的には「ミステリ」として、毎回、殺人事件の犯人探しがストーリーの基軸を為しているのです。

 つまり、吸血鬼や狼男といった超自然的な怪物たちが存在する世界における犯罪を扱った、ある種のSFミステリになっているわけです。

 しかも主人公の女性スーキーは、限定的ながらも人の心を読むことができる超能力者だという設定もあります。彼女が吸血鬼のビルと恋に落ちるのは、生ける死者である吸血鬼の思考は読み取ることができなかったから、という動機づけもおもしろいところ。社会から疎外されている者同士の恋愛という要素が、強調されているんですね。

 また、ということは毎回の事件の犯人も吸血鬼ということにしてしまえば、話は簡単なのですが、実はそうじゃなかったりする場合もあるところが、ミステリとしておもしろいのです。

 さらに、舞台となるアメリカ南部の田舎町の息が詰まるような「田舎くささ」と、元々セックスの暗喩である吸血行為のエロティシズムを前面に押し出しているところが、若者向きの『トワイライト』や『ヴァンパイア・ダイアリーズ』とは違うところです。

 特にテレビドラマ版は、アカデミー賞を受賞した「アメリカン・ビューティー」の脚本家であり、葬儀屋一家の生活を描いたドラマ「シックス・フィート・アンダー」の製作者でもあるアラン・ボールが、吹き溜まりのような鬱屈とした田舎町で起こる血とセックスにまみれた物語を丹念かつねっとりと描写していて、まさに「大人向き」のセクシーでビターなドラマになっているところが実に良いです。

 女性はもちろん、男性のミステリファンも、騙されたと思って、ぜひ一度挑戦してみてください。

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