翻訳者7人の近況や所感をお伝えするコーナー、2回目です。

 田口俊樹

 ボケ防止には会話が一番、みたいなことをテレビで言っているのを聞いてから、パチンコ台にも話しかけることを心がけている。

 最近は『北斗の拳』にハマってるんで、ケンシローが「おまえの命はあと五秒」なんて言うのに応じて、「おらおら、もう五秒経ったのにまだ生きてるぞ、おらおら、ケンシロー、どうした、ケンシロー」なんぞと言い返したりしているわけだ。

 ご案内のとおり、パチンコ屋はうるさいことこの上ないところなので、これを実際に声に出してやっても誰にも怪しまれない。

 それでも、さすがに朝の開店直後はすいていて、それほどうるさくはない。

 なのに、先日うっかりこれをやっちまった。「おらおら、ケンシロー、おらおら」と。

 ちょうどそのとき若い女性店員がうしろを通りかかり、あっと思ったときにはもう遅かった。

 思わず振り向いたら、眼が合ってしまった。

 店員の顔は恐怖に凍りついていた。

 孤独です、私、朝から。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 横山啓明

ペレケーノスの初校を出してから、気が抜けた。怠惰な日を送る。まずい。で、まず、部屋の掃除。ああ、だめだ。全然片づかない。というか、もはや、この狭い部屋では増殖する本やCD、DVDを整理整頓しようという試み自体が無謀なのだ。窓へいたる通路を確保したことでよしとしよう。気持ちを切り替えて読書に専念。積ん読の山を崩していく。今年も翻訳ミステリーは豊作だぞ。次の作品の翻訳にもそろそろ本腰を入れないと。秋の日は、こうして過ぎていくのであった。

(よこやまひろあき:北海道生まれの東京育ち。AB型。夏が好きなのに虫が苦手。主な訳書:ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』ペレケーノス『変わらぬ哀しみは』など。ツイッターアカウント@maddisco

 鈴木恵

『黒竜江から来た警部』を映画化するなら、主役のジエン警部は誰にしたいか。9月に開かれたこの本の読書会のレポートにそんな話題があり、アンソニー・ウォンやサイモン・ヤムの名があがっていた。ちなみに著者がイメージしていたのはチョウ・ユンファらしい。3人とも主役をはれる二枚目だから、それなりに納得するのだが、もうひとひねりして、ジョニー・トー監督の作品には欠かせない名脇役、林雪(ラム・シュ)はどうだろう。いかにも面の皮の厚そうな小太りの三枚目をイメージしながら読み返すと、娘を捜してなりふりかまわず異郷を突っ走るジエン警部にますます親近感がわく。みなさんも試してみては。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし。ツイッターアカウント@FukigenM

 白石朗

USTREAM中継で坂本龍一教授の北米ツアーをリアルタイムで堪能、同じ週のなかばには pupaのコンサートで overdose of fatal airwaves に酔いしれました。仕事の合間にJ・G・バラードの自伝『人生の奇跡』を読み進めています。上海ドリームスケープ。あ、柴田元幸さん編集の雑誌〈Monkey Bussiness〉の 2010 Fall Vol.11「幽霊・影・分身号」に、最近のキング作品にまつわるとりとめない雑感を書かせてもらいました。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊は『デクスター 夜の観察者』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 越前敏弥

『フランキー・マシーンの冬』、読了。「最初の80ページのゆるさに耐えられれば、あとはOK」という意見を2、3耳にしたけれど、このほんわかした80ページがあるからこそ、そのあとがページターナーになるんだよ。基調の文体が過去形だろうと現在形だろうと、緩急のバランスに気を配る巧みさはニール・ケアリーのときからまったく変わらない。

 ところで、「あたぼう」の原語はなんだろう? だれか知ってる人、教えて。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen

 加賀山卓朗

 自分へのご褒美というのがはやってるんですか。やっちゃいました。ティーレマン指揮の『ニーベルングの指環』CDセット。すんごい活きがいい。もう指環は一生これでいいやと思うほど。往年の名歌手がここにいればと思わなくもないけれど、ないものねだりはいけません。何回聴いても飽きないなー(いまのところ)。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 上條ひろみ

一日の仕事のノルマを終え、半身浴をしながら本を読んでいるときがわたしの至福の時間だ。

二時間ぐらい読みふけってしまうこともある。

今夜のおともはヘニング・マンケル『五番目の女』(柳沢由実子訳/創元推理文庫)。

ヴァランダー刑事は冷たい雨の降りしきるなか、泥まみれになって惨殺死体の検分をしているのに、こっちはお風呂でぬくぬくとリラックスしていて、なんだか申し訳ない。

この本には「いすを変えると見方が変わることがある」という箇所が何度か出てくる。車の運転席に座ってても、後部座席に移動してみるとかね。簡単なことだけど、ヴァランダーには意外と効果があるみたいなので、翻訳作業中に煮詰まったらやってみようかな。

お風呂から出たら、録画しておいたテレビドラマを見る。

そして就寝。するとたいてい、小説とドラマと実生活がまざった奇想天外な夢を見てへとへとになる。でもこれがむっちゃおもしろい。起きたらすぐ忘れちゃうんだけど。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)