『螺旋』はスペインの新人作家サンティアーゴ・バハーレスがなんと弱冠二十五歳で書いた作品である。新人らしい感性のみずみずしさに、読書の醍醐味を堪能できるだろう。

 編集者のダビッドは人気作家トマス・マウドを探しだすように命じられた。マウドの大河SF小説『螺旋』は五巻まで刊行され大ベストセラーになっていたが、六作目の原稿が届かず、すでに刊行を予告し宣伝を打っている出版社は危機に直面していたのだ。

 実はマウドは原稿を定期的に出版社に送ってくるだけで、社長すら作家本人に会ったことがなかった。原稿から判明したわずかな手がかりをもとに、ダビッドはピレネー山脈の小さな村に向かった。休暇をとったと嘘をついて妻を同伴したダビッドは、数日で簡単にめざす相手が見つかるとたかをくくっていた。あとは人里離れた土地でのんびりと骨休めをするつもりだった。しかし、調査は難渋し、ダビッドの周囲では不穏なできごとが相次ぎ、夫婦仲も険悪になっていく。

 描かれている村の住民たちは、いずれも個性豊かで物語に生彩を与えている。誰がめざす作家なのか、はたして謎の作家は存在するのかと、六〇〇ページを超える大作だが、ぐいぐい読み進めることができるだろう。

 さらにダビッドの捜索と並行して、一見無関係な麻薬中毒の青年の物語が緻密に描かれていく。しかし驚くことに、最後にふたつの異質の物語は鮮やかに収斂するのだ。若い作家の書物と物語への愛に、読者は胸を打たれ、この本と巡り会った喜びに浸ることだろう。おもしろい物語を探している方には、ぜひとも手にとっていただきたい。

羽田詩津子(はた しずこ)お茶の水女子大学英文科卒。おもな訳書に ブラウン『猫は殺しをかぎつける』、クリスティー『アクロイド殺し』、マイロン『図書館ねこデューイ』、ニッフェネガー『きみがぼくを見つけた日』、ボウエン『押しかけ探偵』他多数。著書に『猫はキッチンで奮闘する』

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