第17回 善人ゼロのバイカーギャングドラマ「サンズ・オブ・アナーキー」

 私はどうにもアメリカの田舎が恐いのです。

 日本の田舎なんか、比べものにならない恐ろしさが、アメリカの田舎町にはあるような気がしてなりません。

 日本の田舎というと、何か牧歌的じゃないですか。たとえ、横溝正史の『犬神家の一族』『八つ墓村』『獄門島』のような、因習と惨劇が待ち受けていたとしても、その根っこにあるどろどろとした怨念というのは、逆に人間くささを感じさせるものがあるとは思いませんか。

 アメリカの田舎には、人間くささが薄いのです。しょせん、できてまだ三〇〇年も経っていない国の、それも田舎ともなれば、そこにはまだ人間の営みの歴史というものがきちんと積もり積もっていなくて、なんとも虚無的な空白が、むきだしになって居座っているような、そんな居心地の悪さがあると言うのは、考えすぎでしょうか。

 実のところ、アメリカと言えば大都市にしか行ったことはないので、田舎の実態なんてまったく知らないのですが、とにかく恐いのだから仕方がない。

 それはもちろん、翻訳ミステリによる刷り込みなのは、自分でもわかっています。

 たとえば、ダシール・ハメットの『血の収穫』の舞台である鉱山町「パースンヴィル」は、悪党どもが入り乱れて利権をむさぼる悪夢のような町でした。

 ジェイムズ・ケインの『郵便配達はいつも二度ベルを鳴らす』で、主人公の男が希代の悪女と出会うのは、メキシコ国境近くの街道ぞいにある小さなダイナーです。

 そして、なんといってもジム・トンプスンです。彼の悪夢のような暗黒小説に登場する田舎町の数々。『おれの中の殺し屋』『ポップ1280』『残酷な夜』『失われた男』『荒涼の町』も、狂気と暴力の舞台となるのはそろいもそろって田舎町ではありませんか。

 そんな、暴力吹き荒れる田舎町を舞台にしたアンチ・ヒーローたちのドラマが、今回ご紹介する「サンズ・オブ・アナーキー」です。

 舞台となるのはカリフォルニア州北部の小さな(架空の)町、チャーミングです。

 この町は、実質上、地元のバイカー・ギャング団「サンズ・オブ・アナーキー(無政府主義の子ら)」によって支配されていました。

 彼らは、銃の密売などで違法に金を儲け、保安官に賄賂を握らせて、自由気ままに暮らす無法者たちです。

 日本の暴走族と違って、アメリカのバイカー・ギャングというのは、大人になったら「卒業」したりしませんからねー。しかも、銃器で重武装してるから、恐いのなんの。

 彼らは、縄張りを荒らそうとするメキシカン・ギャングや、町で覚醒剤を売りさばこうとする白人至上主義者集団と、血を血で洗う抗争を繰り広げていきます。なにせ、バイカー・ギャング達は、町を守る自警団を気取ってもいるのでした。

 さらには、組織犯罪壊滅をめざして町に乗り込んでくるFBIやDEAといった政府の捜査官たち。ところが、この捜査官たちが手柄のためなら一般市民を巻き添えにすることもいとわないダーティな連中ばかり。

 何が正義で何が悪だか、まったくわからない暴力の渦の中、バイカー・ギャングのリーダーの義理の息子で、今はサブリーダーとなっている青年は、自分たちの行動に疑念を抱き、暴力の連鎖からの出口を求めてもがき続けることになるのでした……。

20110324090801.jpg

 というわけで、いくらケーブルテレビとはいえ、よくこんなえげつないドラマ、テレビで放送してるよなあ、という超ハードボイルドな作品なのでした。もう、アメリカの田舎町の怖さをこれでもかというくらいに見せつけてくれます。たとえ、フィクションだとわかっていても、これ見てたら絶対アメリカの田舎になんか遊びに行きたくないっす。

 出てくる役者が、みんなとにかく悪そうな面構えなんですが、中でも、ギャングのリーダーを、あの「ヘルボーイ」とかでお馴染みの怪優ロン・パールマンが強烈な存在感で演じているところが、彼のファンにはたまらんです。

 日本でも、テレビ放送は無理でも、ソフト化されることを期待したいところであります。

〔挿絵:水玉螢之丞〕

FXテレビの公式サイト

http://www.fxnetworks.com/shows/originals/soa/

DVDの予告編

〔筆者紹介〕堺三保(さかい みつやす)

20061025061000.jpg

1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。今年の仕事は、『ウルフマン』(早川書房)のノベライズと『ヘルボーイ 壱』、『ヘルボーイ 弐』(小学館集英社プロダクション)の翻訳。

ブログ http://ameblo.jp/sakaisampo/

フェイスブック http://www.facebook.com/m.sakai1

ツイッター http://twitter.com/Sakai_Sampo

●AmazonJPで堺三保さんの著訳書を検索する●