キンジーは家主・ヘンリーより、近所に住むバッキーという青年の悩みを解決して欲しいと依頼される。急死したバッキーの祖父、ジョニーが本当に第二次世界大戦時、義勇軍として参加していたのか、調べてほしいというのだ。遺族が軍人墓地に埋葬しようとしたが、なぜか軍に在籍記録が残っていないという。キンジーが軍歴の証拠を見つけるべくジョニーの家を捜索し始めた矢先、ジョニーの部屋が何者かに荒らされる事件が発生。その上、部屋から謎の鍵が封じ込められた隠し金庫が発見される。ジョニーは本当に軍人だったのか?発見された鍵に隠された秘密とは?

 この『無法のL』、最初の4分の1くらいまで読んで「おっ」と思ってしまった。なんせジョニーの軍歴の有無をめぐってジョニーがスパイだった説、はてはCIAや政府の隠蔽工作説まで飛び交い、今までのシリーズにはなかった謀略小説のような展開を予感させたからだ。キンジーがジョニーの家に侵入した怪しげなカップルをフロリダまで尾行する場面には、私立探偵の調査というより諜報活動に近い印象を感じた。

 そういえばシリーズ中、しばしキンジーがレン・デイトンを愛読するシーンが登場するのを思い出した。ひょっとして作者グラフトン、エスピオナージュもののファンで自身も挑戦してみたくなったのか?

 そんなわけで物語序盤はサスペンス性に富んでいて、この後どんな風に大風呂敷を広げるつもりなのか、と期待が膨らんだ……のだが中盤でその期待はすぐに裏切られてしまう。ある人物の告白でジョニーの過去があっさり判明、しかもスパイや謀略とは無縁のスケールのちっちゃ〜いオチである。しかもフロリダまで来てキンジーが気にしているのはヘンリーの兄、ウィリアムと行きつけの食堂の女主人・ロージーの結婚式に出席できるかどうか、ということ。呑気だなあ、キンジー。

 おまけにヘンリーからは滞在費を心配されるという、妙に現実感があるというか、生活臭のする問題に直面する。前半の緊張感が嘘のようにゆるーい感じになってしまい、本来なら緊迫感溢れるであろう鍵の謎の解明部分もいまいちシマリのない雰囲気だと私は感じた。

 生活臭。そう、ここでも事件よりキンジーの私生活、プライヴェートな面の方がついつい目にとまってしまうのだ。

 前回の『K』で、なぜ自分はキンジー・ミルホーン・シリーズ、および3F作品のライフスタイル小説としての側面にこだわっているのか自分自身でわからない、と告白した。で、あれからさらに悩み続け、まだまだ結論らしきものに到達できず本当に頭が沸騰しそうになっているわけです。が、悩んだ中でひとつ気付いたことは、「3F」の読者層をふだんミステリを読まない読者が大半を占める(占めたと表現した方が正しい?)と勝手に想定していたことだ。つまり、

 「3Fブーム」というのはジャンル読者ではないひとたちによって支えられたもの⇒おそらくそうした読者はミステリとしての推理や捜査の部分よりレディガムシューのプライヴェートな描写を作品のキモとして面白がっていたはずだ、

 という思考過程をどうやら私は無意識のうちに辿っていたようである。

 ライフスタイル小説という視点でなぜ評価しようとするのか、という問題を突き詰めると、なぜ「3F読者=ジャンル外読者の支持が大きかった」という想定が頭の中で発生してしまうのか、というさらなる壁にぶち当たりました。もう、誰か助けて……。

 挟名紅治(はざな・くれはる)

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ミステリー愛好家。「ミステリマガジン」で作品解題などをたまに書いています。つい昨日まで英国クラシックばかりを読んでいたかと思えば、北欧の警察小説シリーズをいきなり追っかけ始めるなど、読書傾向が気まぐれに変化します。本サイトの企画が初めての連載。どうぞお手柔らかにお願いします。

過去の「ふみ〜、不思議な小説を読んで頭が、ふ、沸騰しそうだよ〜 略して3F」はこちら

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