みなさま、こんにちは。越前敏弥さんにお声をかけていただき「秋の読書探偵」作文コンクールの応援にやってまいりました。これから4回にわたり、やまねこ翻訳クラブの会員たちが応援記事をお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。

 やまねこ翻訳クラブをご存じですか? やまねこ翻訳クラブは、翻訳と子どもの本に興味を持つ人が集まるインターネット上のクラブで、1997年に発足しました。メールマガジン「月刊児童文学翻訳」を発行したり、児童文学賞受賞作品リストを作ってウェブサイトで公開したり、会員同士で翻訳勉強会や情報交換をしたりと、さまざまな活動をおこなっています。毎年12月には、過去1年間でもっとも心に残った本を会員が投票で選び、「やまねこ賞」を発表しています。受賞作はどれもおすすめですよ! 現在100名ほどの会員が、日本全国および海外から参加しています。インターネット上の掲示板でハンドルネーム(ニックネーム)を使ってやりとりするため、ふだんは顔を合わせることがありません。だからこそ、ときどきひらかれるオフ会で、初めて顔と名前が一致したときの感激はひとしおです。クラブ発足当初はほとんどの会員が翻訳学習者でしたが、現在は訳書を出版している会員が増えたほか、レビュー執筆やおはなし会など翻訳以外の活動を主目的にする会員も参加しています。

 ウェブサイトでは、翻訳と子どもの本について、たくさんのコンテンツを公開しています。ぜひ見にいらしてくださいね!

●やまねこ翻訳クラブ トップページ

●資料室(文学賞受賞作リストなど)

●やまねこ賞

●読書室掲示板(本の話題について、お気軽にコメントをお寄せください)

 それでは、「秋の読書探偵」作文コンクールを応援するべく、早速おすすめのYAをご紹介いたします。ちなみにYA(ワイエー、ヤングアダルト)というのは、中学生や高校生くらいの年代の読者に向けて書かれた作品のこと。もちろん大人も楽しめます。

 やまねこ会員として今いちばんおすすめしたいのは、昨年のやまねこ賞受賞作『はみだしインディアンのホントにホントの物語』。とにかく圧倒的なパワーを持つ物語です。主人公は北米先住民スポケーン族の保留地で生まれ育った少年アーノルド。部族は哀れなほど貧しく、中でもひ弱なアーノルドはいつもいじめられてボコボコにされています。と、冒頭からアーノルドの悲惨な生い立ちや環境がつづられるのですが、その一人称の語り口の軽快でおもしろいこと! 笑いながらどんどん読み進めずにはいられません。そして笑いながらも、涙ぐんだり、はっとさせられたり、ぎゅっと心をつかまれたりするのです。さて、希望のない人生から脱するため、アーノルドは裕福な白人の通うハイスクールに転校する一大決心をします。部族からも白人からも完全にのけ者扱いになりますが、やがて新たな友情や恋が芽生え……。アーノルドのモデルは作者自身で、なんと物語の78%は事実だそうです。絶望的な環境におかれながら、つきぬけたユーモアセンスと熱い魂で自らの道を切り開くアーノルドに、読者は大きな勇気をもらいます。マンガの挿絵も魅力いっぱい!

 つぎにご紹介したいのは、拙訳のYAミステリー、『闇のダイヤモンド』です。アフリカの内戦から逃れてきた難民の四人家族を、アメリカ東部に暮らす白人の四人家族がホームステイさせるところから物語が始まります。アメリカ人高校生のジャレッドは、自分の部屋をよそ者とシェアすることに断固反対ですが、人としゃべるのが好きな妹のモプシーは大喜び。そしていよいよやってきた難民たちは、なんだか様子がおかしい。彼らは本当の家族なんだろうか、とジャレッドは疑念を抱きます。いっしょに暮らすうちに、ふたつの家族は心を通わせていきますが、じつは難民一家を追う恐ろしい五人目の難民が……。はらはらするサスペンスに、最後まで目が離せません。作者は実際に難民を受け入れた経験があるので、物語には臨場感があり、登場人物も生き生きしています。重いテーマを含むのに読みやすいのは、アメリカ人の兄妹はもとより、十代のアフリカ人の兄マトゥと妹アレイクの視点もしっかり描かれているから。アレイクの心の描写に、わたしは泣きました。

 ちなみにこの作品は、評論社から出ている「海外ミステリーBOX」シリーズの1冊です。すぐれたミステリーに贈られるエドガー・アラン・ポー賞のジュニア部門とYA部門の受賞作とノミネート作だけを集めたこのシリーズは、どの作品も読み応えたっぷり。その中で、スポーツが好きな人におすすめしたいのは、記者コンテストに優勝して大学バスケットボールの決勝戦に招待された中学生の少年少女コンビが、スター選手をめぐる事件に巻きこまれる『ラスト★ショット』です。また、ひたひたと怖さが迫ってくるゴーストストーリーがお好みなら、13歳の少女が主人公の『深く、暗く、冷たい場所』はいかがでしょう。砂漠での生死を賭けた過酷なサバイバルを疑似体験したい人は『マデックの罠』を読んでみてください。シリーズのほかの作品もどれもおすすめです。

 考えてみたら、どの作品も、十代の人が自分とはちがう世界の人と出会う物語なのですね。そして本を読むことで、わたしたちも彼らに出会えます。「秋の読書探偵」をきっかけに、みなさまにいい出会いがありますように!

武富博子(たけとみ ひろこ)。東京都生まれ。上智大学卒業。訳書に、クーニー『闇のダイヤモンド』、グラフ『アニーのかさ』、アッシャー『13の理由』、ジェイコブソン『バレエなんて、きらい』など。やまねこ翻訳クラブのスタッフ。

やまねこ翻訳クラブ

http://www.yamaneko.org/

「秋の読書探偵」作文コンクールに協力しています。