みなさんこんにちは。おかげさまで、なな、なんとこの連載も11回を迎えました。連載期間のわりには11回って少ないんじゃないの、というツッコミはなしでお願いします。今回、あらためて第1回から自分の書いた原稿を読みかえしてみたんですが、いやはや、あんまり成長していないですねー(ため息)。まぁでも、これからも需要がある限りのほほんと続けていきたいと思います。(需要あるんですかね?)

 あと今回はおまけとして、今までに読んだ作品でランキングを作ってみました。最後のほうにこっそりひっそり書いてあります。

 さて、それでは今回の作品のご紹介を。昭和初年から愛され続けているという大ロマンの傑作、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』です!

■あらすじ■

 戴冠式を目前に控えたルリタニア王国にただよう陰謀と邪恋の暗雲。王位の簒奪を狙う王弟ミヒャエル大公とヘンツオ伯爵。風雲急を告げる王国の渦中に、偶然とび込んだ国王に瓜二つの英国の快男子ラッセンディルの数奇な三ヵ月の大冒険。〈剣と恋〉〈義侠と騎士道〉の華ひらく絢爛たる世紀末の宮廷大絵巻。正編と併せて、続編「ヘンツオ伯爵」を収録する。(本のあらすじより)

『ゼンダ城の虜』は、1894年に発表された「ゼンダ城の虜」と、その続編にあたる「ヘンツオ伯爵」の合本になっています。この原稿では主に「ゼンダ城の虜」に触れたいと思いますが、両方とも面白いです!

 さて、読み始めてまず「ん?」と興味を惹かれたのが、なんだか不思議な章のタイトルでした。22章あるのですが、各章に「男の頭髪の色について」「王様、約束を守る」などなど、なんだかちょっと印象的な題名がついているのです。物語世界にすっと入っていける魅力的なタイトルばかり。私のお気に入りは「茶卓には新しい使い方がある」「ルパート青年の深夜の気晴らし」ですね。なんというか、不思議なユーモア(?)があるような気が……。内容に即した、おもしろタイトルがたくさんあります。

 この「男の頭髪の色について」という題は、実はものすごく重要なのです。なぜなら、主人公のルドルフ・ラッセンドルはヨーロッパの一王国であるルリタニアの王様と同じ、“ふさふさした暗赤色の髪”をしているからです。この髪の色と“長く、鋭いまっすぐな鼻”はエルフバーグという一族の特徴で、その一族に連なるルドルフと、ルリタニアの王様であるルドルフ五世は髪の色も顔立ちもそっくりなのです! ルドルフだらけでややこしいですが。

 さて、「瓜二つ」という設定が出てきたからには、その後の展開は何となくわかります。ルドルフは、戴冠式の直前に王弟ミヒャエル大公に捕らえられてしまったルドルフ五世の替え玉に抜擢されます。やっぱり双子やそっくりさんがが出てきたら「いれかわり」か「なりすまし」ですよねー。そしてルドルフの正体を知る王の忠臣、サプト大佐やフリッツ・フォン・ターレンハイムなど数人の他には見抜かれることなく戴冠式を終え、そのまま三ヵ月にわたって王としての生活を送ります。宮廷の人々や国民をあざむきつつ、同時にルドルフ五世が監禁されているゼンダ城へ乗り込み、助け出す方法を考えるのです。

 しかしこの「難攻不落の要塞(城)に少数精鋭で乗り込んでいく」という設定は、まさしく冒険小説のセオリーですね(とかなんとか偉そうなこといいましたけど、合ってますよね? どきどき)。物語の成立年代を考えると、この作品の冒険小説的設定が後の作品へ受け継がれていったのでしょうか。シンプルだけれどもやっぱり血湧き肉躍る設定ですな。これぞ冒険! という感じです。

 あと武器が主に剣と銃、というのも冒険小説初心者としては読みやすくて良かったです。まだまだ、銃の名前や戦闘機、軍隊名だけで萌えられるという玄人の域にはほど遠いので、剣だけの決闘シーンなどは場面が想像しやすかったです。冒険小説を読み慣れてないひとや、歴史小説、ファンタジーが好きな方なども楽しく読めると思います。

 さて、この作品の魅力はまだあります。それはあらすじにもある「剣と恋」。「剣」は言わずもがな、波乱万丈の王様救出劇のことですが、では「恋」とは? この「恋」が、物語に深みを与えている素晴らしいエッセンスなのです。

 王様の替え玉となったルドルフは、ルドルフ五世と婚約が噂されているフラビア姫と恋に落ちてしまいます。姫は王と弟のミヒャエルの従姉妹で、ルドルフのことを王様と信じきったまま、彼を愛するのです。ううむ、こういう「瓜二つ」の設定が出てきた段階でなんとなーく予想はついていたんですが、これ、切ないお話ですよ。だって正体がばれたら一巻の終わりだし、王様を助け出したら姫とはお別れなわけですよ。もー、絶対成就しないってわかってるだろうに、なんで恋に落ちるかな〜、ルドルフよ。まぁ、それが恋というものですわね。また、現代の小説のように深い心理描写(モノローグ)があるわけではないのですが、それが逆に想像力をかき立てられるというか……。例えば、ルドルフとフラビア姫の会話で、

 そのまま、ふたりは長いあいだ動かないでいた。

「わたしは気が狂っているのです」と、わたしはぽつりといった。

「その狂っているところが好きなのです」と姫が答えた。

 とかね! もう、この会話にどれだけの想いが込められているかって、もう……! 姫の告白は、格調高い言い回しとあいまってとてもすてきです。このあたりの「許されない恋」感など、冒険小説的な魅力だけではなく、少女漫画的なよさもある物語だと思います。ちなみに、第二部の「ヘンツオ伯爵」では、この「恋」ゆえに大騒動が始まります。こちらもよりバタバタ感が増していて面白いです!

 はてさて、まとめると、やっぱりすごかったなぁ、面白かったなぁという読後感で大満足の作品でした。何度も映画化され、英語に Ruritanian という新しい形容詞ができたほど人気が出た作品です。古典的名作ですし、未読の方はぜひ! 強くオススメします。

 あっ! 最後に担当本の宣伝をしていいですか! やっちゃいます! 9月21日発売の『三つの秘文字』(S・J・ボルトン/創元推理文庫)上巻下巻 は、イギリスのシェトランド諸島を舞台にした、ルーン文字を刻まれた死体が見つかるというスリル! ショック! サスペンス! な感じのミステリですが、英国冒険小説がお好きな方にはぜひお手にとっていただきたい作品です。七福神でおなじみ、川出正樹さんによる解説のタイトルは「血が女の中に流れている限り、不可能ということはないんだよ」です! こちらもよろしくお願いしま〜す!

○おまけ〈ザ・ベスト・オブ・ラムネ賞〉

 さて、今回の原稿を書いているうちに、今までで一番面白かった作品はなんだろう……。と振り返ってみたくなったので、1回から10回までのラムネ連載のバックナンバーを読みかえして、5位まで順位づけしてみました。カッコ内は評価の理由です。

1位 『鷲は舞い降りた』 ジャック・ヒギンズ リーアムLOVE!
2位 『ハンターズ・ラン』 ジョージ・R・R・マーティン他 マネックLOVE!
3位 『北壁の死闘』 ボブ・ラングレー 大迫力の登攀シーンがすごい!
4位 『狼殺し』 クレイグ・トーマス ガードナーさん殺しすぎ!
5位 『ナヴァロンの要塞』 アリステア・マクリーン マクリーン師匠に敬礼!

 てな感じです。1位の理由はいうまでもない! リーアム・デブリンが格好良かったからです! ミーハーですみません! みごと、〈ザ・ベスト・オブ・ラムネ賞〉に輝きました。ええ、私の心の中で。『鷲は舞い降りた』の回はなんだか不思議なグルーブ感のある原稿が書けたので、自分でも気にいっています(笑)。ここに挙げなかった他の作品も面白いものばかりです! 翻訳ミステリー大賞シンジケートで〈秋の読書探偵〉を開催していますが、学生さんでも楽しく読めると思いますよ〜。いい作品ばかりですよ〜。未読の方はぜひお手にとってみてください!

【北上次郎のひとこと】

『ゼンダ城の虜』のポイントは、主人公のルドルフにあるのではなく、仇役のルパートにある。この二人が裏表であることと、二人ともに貴族であることが、この作品の最重要ポイントだと私は考えている。そういう目で読み返すとまた違った風景が見えてくるような気がします。

冒険小説にはラムネがよく似合う・バックナンバー