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 9月5日(月)午前11時。台風の影響で1時間遅れたものの、トムは成田空港第2ターミナルの到着ロビーに姿を現した。「寝られた?」「まあ4、5時間は。それにしても暑いね」週末には富士山に登ろうというのに、荷物はまあ少ない少ない。「スーツケースって嫌いだからさ、持ってないんだ」私の運転で、一路東京へ。彼は終始、上機嫌。でも、刊行されたばかりの『エージェント6』の売行きにしっかりチェックが入る。油断できんなー、トム!

 ホテルでチェックインを済ませ、近くの和食屋さんの個室で昼食。彼が無類の鮨好きと知っていたので、「スシ・ランチがあるよ」と水を向けるも、彼はメニューを指差しながら「いや、こっちのほうがいいな。サシミ・ボックスとヴェジタブル・ボックスの両方ついてるんでしょ」と“旬菜弁当”をご注文。あのねえ、トム、野菜といってもそれはジャパニーズ・ストックで煮たヤツで(ry)。1時間後、私は蒟蒻や牛蒡や椎茸など大量の残骸を見逃さなかった。のっけからやっちまったなー、トム!

 6日(火)から8日(木)まで集中取材。記者・書評家の皆さんのご質問の意図を的確に把握し、冷静沈着に答えてゆく。弱冠32歳ながら、作家としての風格は十分。空き時間にわが社内を案内すると、「イケメン……」「チョーかっこいい!」といったざわめきも意に介さず(意味、わかってませんので)、社員からのサインの求めににこやかに応じてくれた。6日に丸の内の日経セミナールームで開かれたトークショウの模様は、遠からず動画でご紹介させていただこうと思うが、会場に向かうタクシーでは——「頼む、もう1回発音チェックして! えーと、ミナ、サン、トム・ロブ・スミス、デス。ドゾ、ヨロシックー!」かわいいなー、トム!

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 9日(金)・10日(土)は念願の富士登山。担当訳者・担当編集者(私ですね)ともに心肺足腰根性に不安材料を抱え、やむなく本サイトの“長屋かわら版”でもお馴染みの翻訳家・加賀山卓朗氏に同行をお願いした。願わくは氏の密着レポートをいずれ拝読したいところだが、皆さん、いかがでしょう? 無事に登頂を果たした本人を新宿で出迎えると、興奮冷めやらずといったところで、「人生最大のハイライトになったよ!」よかったなー、トム!

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 その後、浅草寺で引いた御神籤の“吉”にはしゃぎ、”The Golden Shit by Philippe Starck” にウケまくり(某ビール会社の皆様、ゴメンナサイ!)、スモウ・レスラーたちのガチンコ勝負に目を瞠り、高級鮨店のカウンターでYAKUZAさんたちに囲まれながら舌鼓を打ち、トムはロンドンに戻っていった。そして、彼の産み出した出色のヒーロー、レオ・デミドフも『エージェント6』を以って舞台を降りた。トムとは10月のフランクフルト・ブックフェアでの再会を約したものの、新作を待つ私の首はすでに長くなり始めている。

(新潮社翻訳権統括室 若井孝太)