心理学的にありえないEmpath(y)

 アダム・ファウアー/矢口誠訳

 ISBN 9784163808604(上巻)/ISBN 9784163808703(下巻)/発売中

 上下二巻/定価各2100円

 あの『数学的にありえない』につづくノンストップ・サスペンス!

 開巻とともに破滅へのカウントダウンが開始される——

 《最後の審判の夜》まで86時間——そんな不吉な告知とともに物語ははじまる。

 人間の微細な表情を読み取る心理アナリスト、イライジャ。聴衆に圧倒的な感動を与える天才ヴァイオリニスト、ウィンター。接点のない二人には唯一の共通点があった——首に下げた銀の十字架。突如として、二人は十字架を奪おうとする謎の人物の襲撃を受ける。

 それがはじまりだった。「他人の心を読み、あやつる」能力を持つ《共感者》。そのひとりが巨大な破壊をもくろんでいる。イライジャとウィンターは、それをめぐる暗闘に巻き込まれてしまったのだ。

 かつて《共感能力》を持つ子供たちを収容していた実験施設。そこで起こった悲劇。すべての発端はそこにある。子供たちを見舞った事件とは何だったのか。災厄を阻止しようとする二人の男女の正体は。銀の十字架の役割は何なのか。つぎつぎに積み上がる謎が解かれるとき、痛ましくも恐ろしい因果が浮かび上がる。

 確率論のトリビアをちりばめ、伏線を周到に配置したノンストップ・サスペンス『数学的にありえない』の著者の新作が本書です。かの児玉清さんを唸らせ、多くの読者に「まるで『ジョジョの奇妙な冒険』みたいだ」とつぶやかせた前作。特殊能力をひとつ導入し、その効果とロジックによって異能バトルを展開する——その魅力は本書でも健在です。

 著者ファウアーが愛するスティーヴン・キングの『ファイアスターター』『デッド・ゾーン』を思わせる設定を、やはり著者の愛するマイクル・クライトンのように疾走サスペンスに仕立てた作品です。しかも今回は、ラストの電撃的な謎解きからすべてが逆算して組み上げたがごとき周到な構成を誇っています。

 理屈ぬきに面白いエンタメを読みたいかた、あるいは伏線とドンデン返しの快感を愛するミステリ・ファンの皆さんに、自信をもっておすすめします。

ブラッド・ブラザーBlood Brother

 ジャック・カーリイ/三角和代訳

 

/発売中

 文春文庫/定価830円

 ディーヴァーやコナリーの地位を狙う鬼才が

 ついに最高傑作を完成させた——

 アラバマの若き刑事カーソンは突如ニューヨーク市警に呼び出された。同地で起きた殺人事件の被害者が彼に遺したメッセージが発見されたのだ。やがてカーソンは知る——彼の兄ジェレミーがニューヨークに潜伏していることを。ジェレミーは頭脳明晰にしてすこぶる魅力的な青年だが、シリアル・キラーでもあった。その兄が収容されていた施設から脱走していたのだ。

 そして発生する連続殺人。犯人はやはり兄なのか? 自分の暗い過去を隠して、カーソンは兄ジェレミーの行方を追う。一方、街の底で怪しげな「計画」を進める悪の天才ジェレミー。その究極の目的は——?

 第1長編『百番目の男』の前代未聞の真相でミステリ・ファンの度肝を抜き、第2長編『デス・コレクターズ』では本格ミステリ作家クラブが選んだゼロ年代のベスト海外本格ミステリに選ばれたジャック・カーリイ。「あやつり」テーマの快作『毒蛇の園』につづいて放った本書『ブラッド・ブラザー』で、またひとつ大きな飛躍を遂げました。

 スピーディなサスペンスの果てに大胆なドンデン返しをみせる二人の巨匠ジェフリー・ディーヴァー(『ボーン・コレクター』『ウォッチメイカー』他)とマイクル・コナリー(『ザ・ポエット』『わが心臓の痛み』他)を継ぐ資格を、カーリイは本書で得たと言えそうです。

 多くは申しません。カーリイが見事にコントロールする物語に乗って、ミステリだけが持ちうる快い驚きを体験ください。

 そして、もし時間があれば真相をあたまに入れてもう一度お読みください。呆れるほど多数の伏線が、物語のあちこちに緻密に張られていることに、新たな感動を得ることができると思います。

(文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎) 

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