小中高生のみなさん、こんにちは! ほんやく者の宮坂宏美(みやさかひろみ)といいます。今回は、おもに小学生のみなさん向けに「ほんやく」について書いてみたいと思います。というのも、このホームページがおこなっている作文コンクールでは、「ほんやくされた本」についての感想をぼしゅうしていますが、「ほんやく」がなんなのか、よくわからない人もいるんじゃないかな、と思ったからです。

「ほんやく」っていうのは、ひとことでせつめいすると、ある国の言葉をべつの国の言葉になおすことです。つまり、アメリカやイギリスでつかわれている英語(えいご)を日本語になおしたり、日本語をフランス語になおしたりすることをいいます。たとえば、有名なイギリスの本『ナルニア国ものがたり1 ライオンと魔女(まじょ)』には、英語(えいご)でこんなふうに書いてあります。

Edmund, with his mouth full of Turkish Delight, kept on saying, “Yes, I told you that before,”

 英語(えいご)がわからない人には、ちんぷんかんぷんですよね? これは日本語にほんやくすると、こんなふうになります。

エドマンドは、ターキッシュ・ディライトで口をいっぱいにしながら、「はい、お話ししたとおりです」といいました

 これで英語(えいご)がわからない人にも読める文章になったと思いますが、プロのほんやく者の仕事は、じつはこれだけではありません。読者のみなさんにちゃんと意味をわかってもらえるように、ひつようがあれば言葉をえらびなおすのです。ほら、よく見ると、まだよくわからないところがありませんか? 「ターキッシュ・ディライト」って、いったいなんでしょうね?

 じつはトルコという国で生まれた、あまくてやわらかいおかしなのですが、日本ではあまり知られていない食べ物なので、ほんやく者の瀬田貞二(せたていじ)さんは、これを「プリン」になおしました。

エドマンドは、口いっぱいにプリンをほおばりながら、「はい、申しあげたとおりです。」といいました

             (『ライオンと魔女』岩波少年文庫 p55)

 どうでしょう? 「ターキッシュ・ディライト」ではなく「プリン」と書いてあったほうが、すんなり読めて、どんな場面かよくわかるようになったと思いませんか? ……え? 「プリン」はわかるけど、「エドマンド」がわからない?

 物語を読んでもらえば、「エドマンド」が男の子の名前だということはわかるのですが、本によっては、登場人物の名前も日本人にわかりやすくかえることがあります。先ほどしょうかいした瀬田(せた)さんは、「指輪物語(ゆびわものがたり)」シリーズに出てくる「ストライダー」という人の名前を、「馳夫(はせお)」という日本人っぽい名前にかえました。アニメにもなったあの『アルプスの少女ハイジ』の「ハイジ」も、むかしは「楓(かえで)」という漢字の名前にかえられていたそうです(ちなみに「クララ」は「久良子(くらこ)」)。

 今はカタカナで書く外国の名前もよく目にするようになったので、漢字の名前にかえることはあまりありませんが、わたしが何年か前にほんやくした「きょうもトンデモ小学校」シリーズでは、やはり名前をかえました。「クラッツ」や「ルーピー」など、「おかしな人」という意味の名前を持つおかしな先生ばかり登場していて、くべつがつきにくかったためです。そこで、いちばんへんなたんにんの先生は「ヘンダ」、有名人のまねばかりする図書室の先生は「マネルー」、頭がはげている校長先生は「ピッカリ」という名前にして、日本人にもとくちょうがわかりやすいようにしました。

 いきなりですが、ここでなぞなぞです。

① いつも2×3の計算ばっかりしている骨(ほね)はなーんだ?

② いつも元気いっぱいの骨(ほね)は?

 答えは、つぎのとおりです。

① ろっ(6)コツ

② けんこうコツ 

 これは、アメリカの小学3年生の女の子がかつやくする『ジュディ・モード、医者になる!』という本に出てくるなぞなぞです。ほんやくしたのはやはりわたしですが、じつはもとの英語(えいご)はぜんぜんちがっていて、たとえば②のなぞなぞは、こう書いてありました。

“What do skeletons put on their mashed potatoes?”

(ガイコツがマッシュポテトの上にのせるものはなーんだ?)

“Grave-y!”

(グレイブィー!)

 これだと、ぜんぜんぴんときませんよね? 答えの「グレイブィー」というのは、ポテトなどにかけるソースの「グレイビー」と、お墓(はか)という意味の「グレイブ」の両方をあらわしています。でも、日本人にはどちらもなじみのない言葉で、そのままほんやくしても意味がつたわりそうになかったので、ガイコツや骨(ほね)にかんけいのあるなぞなぞを自分で考えました。

 こんなふうに、わたしたちほんやく者(とくに子どもの本のほんやく者)は、外国語で書いてある文章の意味を日本語にうつしかえるだけでなく、どうやったら読者のみなさんにわかってもらえるか、すんなり読んでもらえるかということをいつも考えて、いろいろくふうをかさねています。もちろん、もとの言葉で書いてあるとおりにほんやくするのがきほんですが、それではみなさんに意味がつたわらなくて、「書いてあることがちっともわからない!」となってしまうことがけっこうあるのです。

 日本だけでなく、外国にもおもしろい本はたくさんあります。それをみなさんに心おきなく楽しんでもらいたいというのが、わたしたちのいちばんのねがいです! 外国語からほんやくされた本もぜひ読んで、いろいろなことを感じてほしい、そして、感じたことを教えてほしいと思っています。コンクールへのごおうぼ、おまちしています!

宮坂宏美(みやさか ひろみ)。弘前大学卒業。訳書に、ジョーンズ「ランプの精リトル・ジーニー」シリーズ、ジェンキンス『キリエル』、ヴィオースト『ルルとブロントサウルス』など。宮城県出身、東京都在住。やまねこ翻訳クラブ会員。

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