第24回 戦う女性弁護士の姿をシリアスに描く『グッド・ワイフ』

 アメリカでは先月の原稿で書いたように秋の新シーズンが始まったところですが、さっそく打ち切り第一号のドラマが出てしまいました。といっても、ミステリでもSFでもないんですけどね。

 六〇年代を舞台に、(当時の)シカゴの夜の世界を描いた『プレイボーイ・クラブ』が、なんと放送3話にして打ち切りとなったのです。3話打ち切りはいかなアメリカのテレビドラマといえど、ちょっとないんですよねえ(いや、実は「1話目しか放送されなかったドラマ」っていうのも、いくつかあるんですが)。

 視聴率が悪かったのも確かなんですが、実はこのドラマ、なんせプレイボーイ・クラブが舞台なんで、いわゆるバニーガール(ハイヒールに網タイツ、身体にぴったりフィットした黒いボディスーツにでっかいウサ耳というアレです)が大量に登場するし、なんせナイトクラブの人間群像の話(日本だと「キャバクラもの」とか「ホストクラブもの」みたいな感じ?)なんで、「地上波で放送するのはいくらなんでも不謹慎」ということで、中西部の保守派の人々から猛反発を受けていたのです。

 テレビ局側としては「厄介払い」ってところでしょうか。予告編を見る限り、殺人事件が絡んだり、けっこうミステリっぽい部分もありそうだったんで、ちょっと見たかったんだけどなー。

 さて、そんなことはさておき、今月は、好調に3年目を迎えた法律ドラマ『グッド・ワイフ』を取り上げたいと思います。ちょうど日本でも第2シーズンの放送が始まってますしね。

 ジュリアナ・マルグリーズ扮する主人公アリシアは、シカゴの地方検事ピーターの妻として、そして二児の母として、高級住宅街に住む専業主婦でした。

 ところが、突然夫がスキャンダル(それもセックス絡み)を起こして、検事を辞任したばかりか、背任の嫌疑に問われて逮捕されてしまいます。

 かくして、二人の(それも思春期の)子供を抱えた四〇代の主婦が、大学時代の友人を頼って、かつての職業である弁護士の世界に復帰しようとするのですが、外からは立派に見える友人の事務所も、実は台所事情は火の車で、ハーバードを優秀な成績で卒業したばかりの若者と、どちらが有能か、試用期間のあいだに競争させられることになってしまいます。

 人よりも目立った方がよく、プレゼンに優れていた方がよいとされるアメリカ社会において、ついつい一歩引いてしまうアリシアは、夫の事件もあって、判事にも検事にもにらまれがちですが、真摯に依頼人の利益を守ろうとする姿勢と、鋭い観察眼と優れた知性で、訴訟の裏に潜む真実をあぶり出し、次々に成果を上げていきます。

 このドラマがおもしろいのは、主人公達が民事も刑事も扱っちゃうところ。おかげで毎回の事件のバラエティが豊かなのです。

 もう一つは、法廷ものでありつつも、通奏低音としては、主人公である中年女性が、自立しなければならない状況に追い込まれ、自己の人生を取り戻していくさまを描いた人間ドラマであるところでしょう。

(なんでも、製作者たちは、クリントン元大統領たち政治家が、繰り返しセックス・スキャンダルを起こしては記者会見を開く様子をニュースで見ているうちに「奥さんはどう思っているんだろう?」という疑問を抱いたところから、このドラマを思いついたんだとか)

 特に第2シーズンでは、根は悪い人間ではないにしても権力欲が旺盛で汚い手も使う政治家肌の夫と、金にがめついようでいて実は正義感あふれる学生時代からの友人ウィルとのあいだで、アリシアの気持ちが揺れ動くところも、女性ファンにはたまらんかも。

 シリーズ全体をつなぐ縦糸である「ピーターの汚職」事件の真相がいよいよあきらかにされていくところも、スリラーとしておもしろいです。

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「ER 緊急救命室」の看護婦長キャロル・ハサウェイ役で一躍テレビ女優としてメジャーになってから9年、まだまだ美しくはあるものの、あきらかに若さはない、という女優としてはある意味やりにくそうな役どころを、ジュリアナ・マルグリーズが、アリシア役を熱演しています。

 いかにも一癖ありそうな男臭さがむんむんしているピーター、対照的に優男っぽいウィル、ウィルの法律事務所の共同経営者で、言動から衣類までまさに「猛女」と呼ぶのがふさわしいダイアン、大学出たての若者ながら抜け目のない策略家のケイリー、そして、ハードボイルドで謎めいたインド系美女の調査員カリンダと、まわりを固めるキャストも個性豊かでキャラが立ってます。

 唯一難点を言えば、アリシアの息子が(ホラー映画だと最初に死んじゃうタイプという意味で)バカすぎて、見ててイライラするところかも(苦笑)。

 さて、女性弁護士が活躍するミステリと言えば、《女性だけの弁護士事務所ロザート・アンド・アソシエイツ》シリーズのリザ・スコットラインでしょうか。

 日本では残念ながら7作目の『代理弁護』で翻訳が止まってしまっていますが、本国アメリカではすでに13作目が刊行されている人気シリーズです。

 でも、昨年、非シリーズ作品の『虚偽証人』が翻訳されたことだし、シリーズの方の翻訳も復活して欲しいものです。

 フィラデルフィアの大きな法律事務所で、訴訟担当者として働いていたというスコットラインの小説は、法廷内外での弁護士、警察、検察、判事のやりとりが実に良くできている……のは、アメリカのリーガルスリラーとしては当たり前のこととして、その上、アクション満載のスリラーになっていることが多いのも魅力なのですが……。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

●「グッド・ワイフ」第1話予告編

●「グッド・ワイフ」シーズン2 NHKの公式サイト

http://www9.nhk.or.jp/kaigai/goodwife2/

堺三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最新刊『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』(小学館集英社プロダクション)。

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