大阪、福岡に続き、10月7日(金曜日、奇しくも鮎川賞授賞式と同じ日)には横浜で第1回の読書会が開催されました。場所はみなとみらい線の終点、元町・中華街駅から少し歩いた公共施設の会議室。

 課題図書は地元横浜に相応しく、S・J・ローザンの『チャイナタウン』。1995年に始まり、今年発表された『シャンハイ・ムーン』まで続いている稀有な人気シリーズです。

 女性私立探偵のリディア・チンはチャイナタウン・プライド(CP)から、寄贈された磁器コレクションの盗難調査を依頼される。相棒のビル・スミスや幼なじみで警官のメアリー・キーの助けを借りながら早速行動を開始したリディア。

 CPの界隈を取り仕切る中国系ギャングや美術品業界に詳しい人物たちと渡り合いながら調査を進めるが……

 初めての読書会で、どれだけ申込みがあるのか不安でしたが巧みな告知文が功を奏したのか、無事満席! シリーズを翻訳されている直良和美さんも出席してくださり、話は大いに盛り上がりました。

 先ず出席者の方々(中にはシリーズ全作を読破している方も)から『チャイナタウン』を読まれた印象を自由に語っていただきましたが、

■風景描写が素晴らしい。

■特に『チャイナタウン』の冒頭、リディアが駆け抜ける描写がまるで映画のよう。

■食事の場面がおいしそうで胃袋を刺激された。

■身近にいそうな登場人物たち。

■描き分けがうまいので、あまり人物の一覧表を振り返らずに済んだ。

■シリーズでリディアとビルが交互に主人公をつとめるので、視点の変化が面白い。

という意見が出されました。

 また今回参加された方々からは直良さんへの質問を事前募集して、当日直良さんにお答えいただきました。

◆小説の中で、ビル・スミスの容姿について大男で「醜男」という描写が出てきますけれど、その姿を思い浮かべる際に俳優など実在の人物でイメージされる男性が誰かいらっしゃいますか?

 ちなみに私はこのシリーズは全て読んでいますけれど、どうもビルの顔をうまくイメージ出来ないのです。

->俳優などの具体的なイメージはありません。

◆主役の二人の口調、言葉遣いなどはこのようにしようと思って訳されたのでしょうか(モデルとした方はいらっしゃったのでしょうか)? それとも、訳しているうちに決まってきたのでしょうか。

->これもモデルとなるようなものはなく、読んだ時の感覚を基に訳しながら修正してきました。

(翻訳・シリーズについて)

◆テンポのいいリディアとビルの会話が大好きです。ふたりの会話を訳すときに、心がけたことは何かありますか?

->テンポを崩さない、説明的にならない、自然な文章ということを心がけています。ローザンは大学で映画を学んでいるせいか、地の文からは脚本的な印象を受けます。

◆この作品を訳していて苦労した点、また楽しかった点はどこでしょうか?

->ビルが主人公の作品では、作品のテーマを暗示していることもある音楽の知識(ローザンはジュリアード音楽院の講義も受講しているらしい)、リディアが主人公の作品では中国文化という点が苦労したところです。

◆シリーズが続いていく中で、訳者としてどんな点を意識しながら訳していらっしゃるでしょうか?

->シリーズ後半で前の作品に出た人物が再び登場する場合、時間の経過と共に変化する主人公たちと間の距離感に注意しています。

『チャイナタウン』でとくに印象に残っているシーン、好きなシーンはありますか?

->やはり(リディアがチャイナタウン・プライドへと街を疾走する)冒頭の場面と、リディアがマットと再会する場面でしょうか。

◆シリーズのなかでいちばん好きな作品、おすすめの作品はありますか?

->ビルが主人公の作品では『ピアノ・ソナタ』、完成度の高さでは『冬そして夜』、リディアが主人公の作品では『チャイナタウン』『シャンハイ・ムーン』です。

 直良さんは『チャイナタウン』の原書を持ってきてくださいましたが、その表紙には「これがリディア?」という出席者一同爆笑してしまうイラストがあり、改めて「西洋人のイメージする東洋人」を感じました。

 最後に翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局から発起人でもある越前敏弥さんが挨拶され、無事読書会は終了、近くの中華街での二次会へと総勢13人で繰り出しました。

 参加してくださった皆さん、どうもありがとうございました。また第2回の読書会でお会いしましょう!