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(承前)

 二次会会場の居酒屋ではテーブルの都合上、鈴木班と越前班に別れて着席。私は越前班だったため鈴木班の会話は聞こえなかったが、あとで知らされたところによると「一次会よりもっと色々細かいお話が聞けて楽しかった」そうだ。

 越前班では「翻訳ミステリを読もう、と思わせるためには何が必要か」という極めて真面目な話になる。読書会の狙いが翻訳ミステリの理解と普及にあるのなら、よりキャッチーな作品を第二回の課題図書にすべきであろうと。

 「映画になってるのとかいいんじゃない?」「だったらボーン・コレクターとか」「ピザマンの次にリンカーン・ライムってのも差が激しすぎるんじゃ」「映画ってことならスティーブン・キングも」「ピザマンの次にキングってのも差が激しすぎるんじゃ」「こうなったらイケメンてのを前面に出してトム・ロブ・スミスとか」「だからピザマンの次に……」「てかトム・ロブ・スミスってイケメンなの?」スマホで画像検索したものが手から手に回され「おお♡」という歓声がテーブルを埋め尽くす。「若いじゃないか!」「なぜこれをPOPに使わん!」「でもトム・スミスって普通の名前だよね」「山田太郎みたいな感じだよね」「水嶋ヒロ的名前に変えたらどうだろう」

 もはや何の話だかわからない。酒も入っている。

 「翻訳ミステリ読んでて、ライフスタイルの違いって食生活の描写で一番感じるよね」と言い出したのは誰だったろう。「オートミールとか」「キャセロールとか」「プディングとか」「その料理が生活の中でごちそうなのか手抜きなのかがわからないから、場の雰囲気が掴めないってあるよね」

 今回の参加者が総じてユルめだったからなのか、課題図書が『ピザマンの事件簿』というトリックを云々するような作品ではなく、むしろ仕事描写メインの話だったからなのか。ツイッターで翻訳ミステリのジャンルがどうこうという議論が熱いことなどどこ吹く風、「ジャンルではなくキーとなる何か」をベースに「違う文化の生活に触れる」という観点で翻訳ミステリ読書の幅を広げられないかという話になった。

1 料理で読み比べたい。レシピ付きコージーだけじゃなくて、スカーペッタとかスペンサーみたいに料理が印象的な作品。同じ料理が出て来て読み比べると面白いんじゃ?

2 アメリカの地図に作品を載せていきたい。シカゴはギャングものだけじゃなくてパレツキーのヴィクもいるし、『ゴミと罰』のジェーンもいる。ドン・ウィンズロウ『夜明けのパトロール』の舞台の近くにはコリン・ホルト・ソーヤーの海の上のカムデンが建ってるはず。

3 仕事で分けてみたい。たとえば古書店ミステリ。『死の蔵書』のシリーズもあるし、ブロックの泥棒バーニィもあるし、アリス・キンバリーの幽霊書店もある。

4 やっぱほらー、男同士のねー、腐女子的なねー、うふふー♡ レフコート『二遊間の恋』のふたりをドラゴンズの荒木と井端に置き換えて読むとけっこう胸熱でねー、うふふー♡

5 やっぱ犬ミステリでしょ、犬! 『ぼくの名はチェット』とか! 『のら犬ローヴァー』とか!

 課題図書をひとつに決めず、ジャンルすら決めず、テーマを決めて持ち寄るという形式……アリでしょう、それ! でもそうなると初心者には敷居が高くなるのではないか、いやいや持ち寄るのは義務じゃなくて一部だけにして「犬ミスに興味あるひと」みたいな告知でいいんじゃないか、などなど検討すべき要素は多いが、方向性のひとつとして考える価値は高いと見たがいかが?

 終電などの関係で徐々に人が減り、最終的に8人がひとつのテーブルに集まる。翻訳ミステリという伏姫を守る八犬士と言っても過言ではない。この8人の懐に手を入れれば仁義礼智忠信孝悌と書かれた玉が出て来たことであろう。

 この精鋭たちを前に、第二回名古屋読書会の相談をする。これからも続けていきたいが世話役がひとりでは何かと手に余る。誰か手伝ってくれないか、と。するとハードボイルド読みで「仁」の玉を持つK氏が「優しくなければ生きている資格がない」とトレンチコートの裾を翻しながら(心理描写)幹事補佐を買って出てくれた。「だったら会場のロケハンは私がやるわ」と「忠」の玉を持つT嬢がモップを振り回しながら(実話)名乗りを上げた。そして会場にモップを忘れて帰った。私が預かってます。てかなぜそんなものを持って読書会に来たんだ?

 以上の協力を得て、第二回名古屋読書会は2月開催、課題図書は「ピザマンのテイストから大きくはずれず、けれど歯ごたえのあるもの」という見地から『クリスマスのフロスト』(創元推理文庫)になる予定。次回は定員ももう少し減らして、じっくり話せる規模で開催予定。告知を刮目して待て!

 2月かー。味噌おでんが美味しい季節だよねー。フロスト警部がもし日本人なら、おでんに熱燗って感じだよねー。えへへ。

大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101