ミステリ試写室 film 2 ロンドン・ブルバード-LAST BODYGUARD-

 試写をご一緒した原作の担当編集者氏いわく、「エリザベス・テイラーしかないだろう」。一方翻訳者のS氏は、「僕的には、ジーナ・ローランズかなぁ」。原作をお読みになった読者ならすでにお判りのことと思うが、本作の影のヒロインこと往年の大女優リリアン・パーマーの役を誰にやらせたいか、ってお話だ。しかし念のため最初に断っておくと、映画『ロンドン・ブルバード』に、そのリリアンは登場しない。

 では、まず予告編をご覧ください。

 傷害罪で放り込まれた刑務所暮らしの日々もやっと明け、3年ぶりに自由の身となったミッチェル(コリン・ファレル)は、心機一転、ヤクザな世界から足を洗おうと決意する。しかし空っ穴の前科者に世間の風は冷たい。仕事といえばキナ臭い話ばかりで、堅気の暮らしはままならない。偶然にも、ロンドンの片隅で執事とともに隠遁生活を送る女優シャーロット(キーラ・ナイトレイ)のなんでも屋の仕事が舞い込んでくるが、よりによってギャングのボス(レイ・ウィンストン)からも度胸のよさを見込まれてしまう。

 原作の老女優リリアンは、引退同然の若き女優シャーロットに置き換えられている。その改変により、映画はすっかり別物になったといっていいだろう。そもそも原作であるケン・ブルーエンの『ロンドン・ブールヴァード』(タイトルが微妙に違います)は、ビリー・ワイルダー監督の映画『サンセット大通り』(1950)を下敷きにしているがショービジネスの世界の虚飾と腐敗を主題にした原典とはひと味もふた味も違って、老女優の狂気を描きつつも、表社会と裏社会の境界線を綱渡りするような主人公の生き方に焦点を合わせている。オフビートな味わいと翳りを併せ持った軽快な犯罪小説といっていいだろう。

 一方映画は、『ワールド・オブ・ライズ』や『復讐捜査線』にも参加したウィリアム・モナハンが脚本と監督を兼ね、スウィンギン・ロンドンの時代直系ともいうべき洒落っ気を前面に出しながら、原作とはまた違った味わいで、切れの良いクライム・ストーリーに仕上げてみせた。暴力の世界と真っ当な生き方の間で揺れる主人公の葛藤を描いて、原作にあったノワール色もきちんと残しているあたりも、お見事というほかない。

 そんな役どころを演じるコリン・ファレルも勿論いいのだが、本作の肝はキーラ・ナイトレイで、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のあまりに強い印象を払拭し、ファッション雑誌からそのまま抜け出したようなコケティッシュな魅力が全開。そのお洒落なヒロインぶりには惚れ惚れしてしまう。そのほか、腐れ縁の悪友ベン・チャップリンや、謎めいた執事役のデイヴィッド・シューリス、主人公の蓮っ葉な妹を演じるアナ・フリールといった個性派の脇役陣もいい味を出している。

 同じブルーエン原作では、先に公開されたエリオット・レスター監督の『ブリッツ』もブルータルなテイストでガツンときたが、総合点ではこの『ロンドン・ブルバード』が文句なしに上。カサビアンからヤードバーズまで、今昔のブリティッシュ・ロックが流れるサントラもセンス抜群だ。ミステリ・ファンの正月映画は、これで決まりでしょう。

※12月17日(SAT)より全国公開予定

※公式サイト http://www.london-boulevard-movie.com/

三橋 曉(mitsuhashi akira)

書評等のほかに、「日本推理作家協会報」にミステリ映画の月評(日々是映画日和)を連載中。

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