後編「巷にシモの降るごとく」

第2回名古屋読書会レポート・前編はこちら

 前編があのような話題だけで終わってしまったのは、決して「あれしか話してない」ということではないので誤解なきよう。理性と品格の名古屋読書会ですもの。ただ議論の内容を詳しく書くと、ほら、ネタバレになっちまいますでしょう? なのでネタバレにならない話題を先に出そうとすると、前編みたいなことになっちゃうわけですよ。理性と品格の名古屋読書会ですもの。

 ということで、ちょこっと真面目に。他になされた意見交換の中からいくつかご紹介。覚悟しとけ、すごく真面目だから。

・ジャック・フロストという名前

 「英語でジャックフロストって言うと、冬将軍っていう意味なんだよ」「へえ!」「あ、だからどの巻も冬の話なのか!」「主人公の名前や書名だけで冬の話だってことがわかるんだ」「じゃあクリスマスのフロストって、とても季節感のあるキレイなタイトルなんだねえ」「フロストがそもそも霜ですもんねえ」「うん、フロストってそもそもシモだもんねえ」「えっ」「えっ」「えっ」「霜?」「シモ?」「……だからシモ?!」「だからシモ!」「霜ネタ!」「シモネタ!」「ばんざーいばんざーい」

 あ、あれ? 真面目な話だったはずなんだが。

・モジュラー型の特徴

 「解決してないことがまだ残ってるよね」「モジュラー型だから、前から継続してる事件もあれば解決する事件もある、そんな日々の中から一週間切り出しただけと考えれば、ぜんぶ解決しなくても当然なんじゃ?」「張りっぱなしで回収されない伏線もそういうこと?」「たとえば何?」「ほら、××の」「え、××って何だっけ」「○○が犯人でしょ」「違うよ○○は▽▽の犯人だよ」「▽▽なんていう事件あったっけ?」「ほら☆☆が見つかって」「そんな話あった?」「エツコさん、○○ってのは誰だったかのう」「いやですよオオヤさん、さっき話したじゃありませんか」「覚えてない」「忘れてるなあ」「昨日読んだのにもう忘れてる」「ってことは張りっぱなしの伏線は」「作者も忘れたんだよ」「そうだね」

 あ、あれ? いやそうじゃなくてモジュラー型ならではのリアリティっつーか、そういう話をしていたはずなんだが。あ、そうだ、こんな話題もあった。ミステリマニア受けしそうな話。

・シリーズの順番

 「コンピュータじゃなくてタイプライターだし、ケータイじゃなくて無線だし、そのあたり昔の作品だなって思った」「これ長編4作って時系列どうなってるの?」「どの順でも関係ないよね、別に前の話を受けてどうこうってストーリーじゃないし」「あ、じゃあもしかしたら『クリスマスのフロスト』が時系列で一番あとって可能性はないか?」「え?」「ほらこのエンディング……これがフロストシリーズの最後だと考えれば……」「おおおお!」「なるほど!」「ありえる!」「慧眼!」「すごい!」「……『フロスト気質』にコンピュータとケータイが出てきます。はい、論破」

 あ、あれ? ミステリマニアっぽい話だと思ったんだが、文字にしてみるとそうでもなかった。なんでだ。そして翻訳ミステリ読書のお約束、異文化あれこれ。

・イギリスミステリの特徴

「お茶飲み過ぎ」「イギリスだからね」「洋服の描写細かいよね」「それもイギリスっぽいよね」「だいたい寒くて天気悪いよね」「イギリスだもん」「社会の中で階級がすごくはっきりしてる」「そういうあたりがイギリスだよねえ」「シニカルな目線が」「もういかにもイギリス」「そういえば他の巻だけどフィッシュ&チップス出てくる」「わあ、イギリスだ!」「ヘイゼル簡単過ぎ」「それもイギ……いや何でもない」

 しまいにゃ怒られるぞオマエら。

・意外な真相。

 「『クリスマスのフロスト』っていうタイトルなのに、クリスマスまで辿り着いてねーじゃん!」

 ──書けば書くほど真面目な意見交換から離れて行くように思えるかもしれないが、それは違う違うのよ。ものすごくいい話もあったんだが、すべてネタバレになるので言えないだけなのだ。シリーズの刊行予定とか、本国で発売されてる〈新刊〉の内容だとかも、オフレコだから言えないだけなのだ。言えないところにこそ、真の価値があると思っていただきたい。星の王子様も言っている。大事なものは目には見えないのだ。

 ということで、ここには書けない、目には見えないものを知りたいという向きは、ぜひ次回の名古屋読書会へ来やあせ。二次会・三次会で今後の計画もいろいろ煮詰めたでよ。

 最後に、プロの技で素晴らしいレジュメを作ってくれた共同幹事の加藤篁さん、人数と条件を伝えるだけで10分で店を決めて予約をとってくれた二次会幹事のモップの魔女、なぜか金を予定より多く集めてしまったスーパー会計嬢、あれこれ細かい準備をテキパキ手伝ってくれたエアロ魔女、東京からお越しいただいた越前さん&芹澤さん、そして参加してくださった全ての皆様に感謝の言葉を伝えたい。

 私は今、猛烈にカンチョ……じゃなくて、感動しているっ!

大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101