本屋大賞——それは全国の書店員たちが投票で「いちばん売りたい本」を決め、受賞作が本屋にずらりと並ぶ一年に一度の祭。2004年の第一回大賞『博士の愛した数式』(小川洋子 新潮社)から8年、今もっとも注目度の高い文学賞のひとつになりました。けれども翻訳小説好きのみなさんは……「国内小説だけの賞だから」とあまり興味を持ってこられなかった方も多いのではないでしょうか??

 しかし、しかし、しかーーし!! 今回ばかりは(願わくば次回以降も)私たち翻訳小説ファンにとってもひとごとではないのです! 翻訳小説を愛する書店員たちが一念発起、「特別企画」と銘打ってはいますが翻訳小説部門を設立し投票を行いました! 8年もの間、やきもきしていたのは私たちだけではなかったのです。

 発表はなんと今晩、4月10日の19時!  発表まであと数時間……さて、どんな作品が上位に入るのでしょうか? 胸を騒がす期待と不安をぐっと堪えて、2011年に日本で刊行された翻訳作品の中から、注目作をおさらいしていきましょう!(※投票対象は、2010年12月1日〜2011年11月30日奥付の新刊翻訳小説です)

■2011年注目作品のおさらい■

『二流小説家』(デイヴィッド・ゴードン 青木千鶴訳 ハヤカワ・ミステリ)

 「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」「〈文藝春秋〉ミステリーベスト10」で脅威の三冠を達成した快作。二流小説を書いて食いつなぐ草食系ダメ男が、世間を騒がせた獄中の殺人鬼から告白本執筆の依頼を受ける。千載一遇のチャンスと思った矢先、新たな死体が主人公の目の前に……。コミカルだけどどこか哀愁の漂う、魅力的なミステリです。

『犯罪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳 東京創元社)

『二流小説家』が三冠なら『犯罪』は全部2位! ドイツの刑事弁護士である“私”が出会った、罪を犯した人々。残酷で可笑しく哀しい彼らの物語を、贅肉を削ぎ落とした筆致で描く、32カ国で翻訳された傑作短編集。先日刊行された2作目『罪悪』も好評な今、追い風に乗って雪辱なるか!!

 他にも「AXNミステリー闘うベストテン」1位獲得『忘れられた花園』(ケイト・モートン 青木純子訳 東京創元社)、三部作の堂々完結編『エージェント6』(トム・ロブ・スミス 田口俊樹訳 新潮社)、『ミステリウム』(エリック・マコーマック 増田まもる訳 国書刊行会)など、翻訳ミステリ界は今年も豊作でございました! 

 もちろん話題作はミステリだけではございません。

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(ジュノ・ディアス 都甲幸治・久保尚美訳 新潮社)

 ドミニカ人史上初、童貞のままで生涯を終える不名誉な奇跡の人になってしまうのか!? 「モテない病」を患うオタク青年オスカーの語り口が楽しい、ポップな新感覚小説は「第2回Twitter文学賞」海外部門1位を獲得!

『紙の民』(サルバドール・プラセンシア 藤井光訳 白水社)

 作者=土星。登場人物が土星に頭の中を読まれまいと四苦八苦、自由を求めて戦争をする話。奇天烈な頁とラテン文学らしいマジックリアリズムに彩られる、ほろ苦いラブストーリーに惚れます。3,570円の値段に躊躇せず持っておきたい素晴らしき逸品。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(ジョナサン・サフラン・フォア 近藤隆文訳 NHK出版)

 9.11アメリカ同時多発テロで最愛の父を喪った少年は、父が遺したある鍵に合う錠を見つけるためにニューヨーク中を探し回る。映画も話題の、悲劇と再生の物語。「感動」よりも深い言葉が心に突き刺さる。

 他にも、多くのファンを持つイアン・マキューアン『ソーラー』(村松潔訳 新潮社)、“記憶”をめぐる短編集『メモリー・ウォール』(アンソニー・ドーア 岩本正恵訳 新潮社)、『ブエノスアイレス食堂』(カルロス・バルマセーダ 柳原孝敦訳 白水社)など文学も豊富です! またSF界からは『プランク・ダイヴ』(グレッグ・イーガン 山岸真訳 ハヤカワ文庫SF)、『ねじまき少女』(パオロ・バチガルピ 田中一江、金子浩訳 ハヤカワ文庫SF)などなど活きのイイ小説たちが主張しております!

 また、来る4月14日に発表となります「第三回翻訳ミステリー大賞」の候補作は、前述の『二流小説家』『犯罪』『忘れられた花園』、そして『夜の真義を』(マイケル・コックス 越前敏弥訳 文藝春秋)、『アンダー・ザ・ドーム』(スティーヴン・キング 白石朗訳 文藝春秋)の五編です。あなたは全部読みましたか??

 いやはや、頁数が足りない足りない。「あれを挙げてないじゃないか!」というお怒りの声がここまで聞こえてくるようです。すみませんごめんなさい。むしろ「あれがあったぞ」話で大いに盛り上がっていただけることを祈って!

 注目の本屋大賞特別企画〈翻訳小説部門〉は、シンジケートでドドンと発表致します。今晩19時以降の発表を、首をながーーくしてお待ちください!!

猫谷書店(ねこやしょてん)

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翻訳ミステリ愛の書店員です。昨年【『死刑囚』売上100冊できるかなっ?】を寄稿させて頂きました。相変わらず本屋で働く毎日です。