今回はDEA(麻薬取締局)捜査官ピアース・ハントを主人公とするサイモン・ガーヴァイスの Hunt Them DownTrained to Hunt(いずれもThomas & Mercer、2019年)を取り上げます。

 米国陸軍レンジャー連隊の一員だったハントには弟が麻薬の過剰摂取で死亡した過去があり、除隊後にDEA捜査官へと転身する。
 潜入捜査で犯罪組織の首領、ヴィセンテ・ガルシアの娘アナに近づき、最終的にはヴィセンテを逮捕することに成功したハントだが、恋仲となってしまったアナの信頼を裏切る結果となり、妻と娘にも去られてしまう。
 シリーズ第1作となる Hunt Them Down は、ハント率いるDEAの急襲部隊がシカゴの麻薬製造工場に向かう場面から幕を開ける。
 同行したジャーナリストのムーアが個人のツイッターでその模様を流していたため工場で働かされていた不法移民たちは殺害され、待ち伏せに遭った急襲部隊の1人も命を落とす。事情を知ったハントは激高してムーアに銃を突きつけたため、停職処分を受ける。
 復職してマイアミへ異動となったハントは、ヴィセンテが連邦拘置所に移されたと知らされる。
 ヴィセンテの息子のトニーが引き継いだ組織は勢力を拡大していたものの、〈ブラック・トスカ〉と呼ばれるヴァレンティナ・ミエレスの攻勢に苦慮していた。ヴィセンテはミエレスに関する情報をすべて提供すると申し出て、連邦保安官によって拘置所からDEAの保護施設へ護送される予定だった。
 ハントも同行するが、ミエレスの副官、ヘクターが率いる武装集団に襲撃されてヴィセンテは殺害される。トニーの娘、ソフィアも別動隊に誘拐され、彼女の親友でたまたま一緒にいたハントの娘レイラも巻き添えを食って連れ去られる。
 そしてトニーは「48時間以内に組織を渡さなければソフィアとレイラを焼き殺す」と通告され、アナは姪の命を救うためにこれまでの経緯を捨ててハントに助けを求める。


 
 続く Trained to Hunt でハントは〈ブラック・トスカ〉の残党がヴェネズエラ陸軍のペラーザ中将の代理人と接触するとの情報を受け、CIA工作員チームの一員としてパラグアイに赴く。
 しかしハントたちが会合場所に到着した時には組織のメンバーは全員射殺され、代理人も行方をくらませていた。
 一方、ペラーザ中将が〈ブラック・トスカ〉と組んでアフガニスタンで麻薬製造を進めているとの情報を得たDEAはハントを現地に派遣、同時に中将の動向を報告し続けていた情報提供者を救出する作戦を進行させる。
 
 主人公のハントは腕利きではあるものの、直情的な一面があってレンジャー時代にも戦友を救出するため独断で行動した過去を持っている。
 そんな性格であるため、第1作で娘を救出するためには手段を選ばず、DEAのみならずガルシア・ファミリーが収集した情報を利用しながら〈ブラック・トスカ〉のマイアミの隠れ家を急襲し、メキシコの本拠へと突き進んで行く。
 第2作ではパラグアイからアフガニスタン、そして最後にはヴェネズエラと各地で銃撃戦が展開され、血沸き肉躍る場面の連続となっている。
 物語はハントだけでなく、アナやレイラ、さらには敵側の人物の視点を通して描かれ、短い章を重ねて展開されるため実に読みやすい。麻薬がらみの犯罪捜査よりもアクションを重視している作風もプラスに働いている。
 著者のサイモン・ガーヴァイスはカナダのモントリオール生まれ。陸軍を経てRCMP(王立カナダ騎馬警察)で対テロリズムや要人警護に携わった。2014年に作家に転身しており、著者と同じ経歴のマイク・ウォルトンが活躍するシリーズも執筆している。
 
■著者サイト■

■作品リスト■
 
マイク・ウォルトンを主人公とするシリーズ
 ・The Thin Black Line(Story Plant、2015年)シリーズ第1作
 ・A Long Gray Line(Fiction Studio Books、2016年)短編
 ・A Red Dotted Line(Story Plant、2016年)シリーズ第2作
 ・A Thick Crimson Line(Story Plant 、2018年)シリーズ第3作

 ピアース・ハントを主人公とするシリーズ
 ・Hunt Them Down(Thomas & Mercer、2019年)シリーズ第1作
 ・Trained to Hunt(Thomas & Mercer、2019年)シリーズ第2作
 ・Time to Hunt(Thomas & Mercer、2020年11月出版予定)シリーズ第3作

 

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀半ばの生まれ。2019年の掘り出し物は、90年代の英国の作家、マイク・ラノン=ウッド。Let Not the Deep という題名の嵐で遭難しかかった船の救出を描いた 地味な内容ながら読み応え充分の作品で、まとめて購入した残り 3 冊も期待できると思わせてくれる出来栄えだった。

 

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