とうとう、この「検屍官」シリーズも今回の『スカーペッタ 核心』と、『変死体』だけ。あと2回、あと2回で終わりですよ!ところで、前作同様「スカーペッタ」の文字がタイトルに入っているのはなぜでしょうね? (ちなみに原題は「THE SCARPETTA FACTOR」)

【あらすじ】

 セントラルパークで若い女性の遺体が発見される。暴行を加えられた後、殺害されたと思われるその死体には、時計のような形状をした奇妙な物体が残されていた。この物体の正体を掴もうとするスカーペッタだったが、捜査は難航してしまう。時を同じくして、スカーペッタはCNNの報道番組にコメンテーターとして出演。その後、彼女のアパートに、不審な小包が届く。

 今回はバイオグラフのような時計状の物体という、怪しげな小道具が登場。科学というより、もはや空想特撮ものの匂いを感じさせる辺り、とうとう「検屍官」シリーズも「怪奇大作戦」のようなテイストになりつつあるのか!と変な期待を私は膨らませた。

 が、その後壁抜け男や水棲人間が現れるわけもなく、いつのまにかスカーペッタのテレビ出演のお話にシフトする。ここで円谷特撮の雰囲気から80年代大映ドラマへと物語は変貌。スカーペッタが出演する番組「クリスピン・レポート」の司会者・カーリーが自己顕示欲に固まった、粘着質のイヤーな奴であり、これが番組内でスカーペッタにいやらしい質問で攻めるわ攻めるわ。まさに大映ドラマでヒロインを苛めるいじわる脇役キャラみたいな女だ。スカーペッタもそんな奴の番組なんか出るのよせばいいのに、勝間和代のような扱いをされるのを覚悟でカメラの前に立つ。さしものスカーペッタもテレビを前に「断る力」を発揮できなかったのか?

 そして番組終了後、プロデューサーからこんなひとことが。

「『スカーペッタ・ファクター』」アレックスは言った。「いいぞ。新番組のタイトルにぴったりだ」——

 そう! 冒頭に掲げたタイトルの疑問、なぜ「スカーペッタ」という文字が含まれているのか、の答えがここにあったのだ。「スカーペッタ・ファクター」とはテレビの新番組のタイトルのことだったのだ!すげえ、前回の連載で「検屍官」シリーズのことを“アイドル小説”なんて形容したけど、とうとうスカーペッタは冠番組を持つような存在になったのである。おめでとう、スカーペッタ! イジメに耐え兼ね、彼女はトップアイドル(というかタレント文化人)に上り詰めたのです。

 が、その後「ケイ・スカーペッタ ネ申テレビ」とか「ケイ・スカーペッタ マジすか学園」が製作されるわけもなく、いつのまにかスカーペッタが正体不明のストーカーみたいな奴に付け狙われる話にシフトする。ここで80年代大映ドラマから今度は東映戦隊ヒーローものに物語は変貌。事件の背後に過去のシリーズに登場した犯罪組織の怪人みたいのが関わっていることが発覚。前作まであれだけギスギスした関係になっていたマリーノとスカーペッタも手に手を取り合い、巨悪に立ち向かうのであった。

 ……とざっと『核心』の内容について説明してみましたがどうでしょう?はい、「意味不明」とおっしゃる方、気持ちはよくわかります。説明している私本人もよくわからないんですから。でも、本当にこういう話なんだよ!本当だよ。

 もはやここまで来ると、ライフスタイル型探偵小説だの何だのと、3Fミステリーの要素は見る影もない気がする。

 実は、例えばスー・グラフトンのキンジー・ミルホーンシリーズが持っていた3Fミステリーのマインドってのは、コージーと呼ばれる作品群が受け継いだのではないかと密かに思っている。

 個々の作品について、「ここらへんがコージーっぽい!」という定義は小財満氏に任すとして、ともかくコージーとは主人公のライフスタイルを前面に押し出したミステリーのサブジャンルだと私は解釈する。主人公が遭遇する事件とグルメなりガーデニングなり私生活で拠り所としているものの描写をバランスよくイーブンに描く小説、それがコージーだと思うのだ。

 しかもコージーの場合、私立探偵や検屍官といった、いわゆる犯罪捜査に携わるものだけなく、市井の素人探偵がその主役を担うことが多く、その点で職業等主人公のキャラクター付けというものを、かなりバリエーション豊かに書けるジャンルである。ライフスタイル的な小説、かつキャラの多彩さという面において、3Fミステリーが囲っていた読者がコージーへと流れていった可能性は極めて大きいはずだ。

 では、国産ミステリにおいて「3F」的なものはどこかに系譜を残していないのか、って話はまた次回。

 挟名紅治(はざな・くれはる)

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ミステリー愛好家。「ミステリマガジン」で作品解題などをたまに書いています。つい昨日まで英国クラシックばかりを読んでいたかと思えば、北欧の警察小説シリーズをいきなり追っかけ始めるなど、読書傾向が気まぐれに変化します。本サイトの企画が初めての連載。どうぞお手柔らかにお願いします。

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