第35回 この秋の新番ミステリ放送一番乗りは、統合失調症の神経精神学者が人間精神に絡んだ難事件に挑む『パーセプション』

 いよいよ秋になり、アメリカでは次々に新番組の放送が始まっています。そんなわけで、今月からはどんどん新しいミステリドラマをご紹介していきたいなあなんて思っている筆者です。

 さて今回は、そんな新番組の中でも、ケーブルテレビでいち早く7月から放送が始まったとびきり変わり種の探偵が登場する作品『パーセプション』を取り上げてみたいと思います。

 パーセプションとは日本語で「認識」とか「知覚」という意味の言葉です。この作品では、毎回起こる事件を解く鍵が、そういう人間の脳や心の働きによって生じる認識の歪みやずれにあるのです。

 そして、その謎に挑むのが、大学教授で神経精神学者のダニエル・ピアースと、彼の元教え子のFBI捜査官ケイト・モレッティ。

 ところがピアース教授には大きな問題がありました。なんと、彼は自身も統合失調症と偏執病の患者だったのです。

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 というわけで、本作の主人公は、日夜現実と妄想の狭間で悩みつつ、人の意識の歪みから生まれる事件を解決していくという、前代未聞の名探偵なのです。

 これまでもエキセントリックな名探偵はたくさんいました(ホームズとかモンクとか、みんなクセありますよねー)が、ピアース教授くらい強烈なキャラクターは前代未聞でしょう。

 なにせ、教授が毎回謎解きに行き詰まったときに相談する相手であるナタリーは、ピアース教授の妄想の産物だし、ときにはテレビのお天気お姉さんがヒントを語りかけてきてくれたり(する妄想を見たり)するのです。

 基本的にマジメなミステリだし、教授本人にとっては深刻な状況なのですが、なんとなくほのぼのしたユーモアに包まれている作りが楽しい異色作です。

 さて、毎回、取り上げたドラマにちなんだミステリ小説を紹介しているわけですが、今回はさすがになかなかピッタリと当てはまるフィクションが見つからなかったので、代わりにフィクション以上に謎に満ちたノンフィクションを何冊かご紹介したいと思います。

『パーセプション』の主人公、ピアース教授のように、統合失調症に苦しむ天才科学者は実在します。

 それが、ゲーム理論をはじめとするさまざまな研究で知られる天才数学者のジョン・ナッシュです。

 シルヴィア・ナサーの『ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡』で有名です。この作品は、ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ主演で映画化されていますので、ご覧になった方も多いかと思います。

 ピアース教授のように、脳や神経の病によって生じる認知の歪みを研究している神経学者も実際に大勢います。

 中でも有名なのが、オリバー・サックスとヴィラヤヌル・ラマチャンドランでしょう。

 サックスの著作は彼が担当した患者の症例を詳細に書いてあるのが特徴で、一番有名な『レナードの朝』(この本も映画化されましたよね)をはじめ、『妻を帽子とまちがえた男』『火星の人類学者』など、多くが翻訳されています。

 ラマチャンドランもまた、数多くの神経疾患症例を手がけ、それを著作として紹介していて、中でも『脳のなかの幽霊』がよく知られています。

 いずれの著書も、人間が世界を認識する「知覚」がいかに不確かで、いかに謎に満ちた不思議なものかを教えてくれる、おもしろいものです。事実は小説より奇なり。たまには、現実の「不思議」を堪能してみてはいかがでしょうか?

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

●「パーセプション」紹介ビデオ

堺三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

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