そしてようやく読書会本番

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中編ここ

 料理班19名、ギムレット班16名が一室に集まり、料理班よりスパニッシュオムレツ+ポテトサラダ+バタールが振る舞われる。飲み物はギムレットの他、『ゴミと罰』ならではの「みかんジュース」だよ。

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 「おいしゅうございました」と35人の岸朝子が手を合わせたところで、いざ読書会開始。今回は「容赦なきコージー初心者チーム」「話が広がりすぎるコージー大好きチーム」「瑣末にこだわる中間チーム」の三班に分かれてのディスカッション、その後でホワイトボードを見せ合いながらの全員での議論という段取りです。

 ところがグループディスカッションの段階で出た意見が巧いこと重なってるんで、変則的にテーマ別にレポしてみましょう。それぞれのチーム名は「初」「好」「中」と略します。

〈登場人物と暮らしについて〉

初:「食べ物の話と学校の話ばっかりじゃん」「会話ばっかりでウザい」「主婦だらけで区別つかん」「だいたい主人公が出しゃばり過ぎ」「そもそも専業主婦なのに掃除婦を頼むか?」「働きたいと思わないのか主人公」

好:「主婦の描写がリアルだよね。自分のこと書かれてるみたい」「私、ちょうどこの話が書かれたころにシカゴにホームステイしてたんですけど、ホントこのまんまですよ。一般家庭でも掃除婦頼むし、食洗機とか当たり前に入ってる。送り迎えのシフトもホントにあるんです」「近所付き合いもさあ、あるある!って思った。田舎ってこうだよね」「都会でも団地なんてこうだよ」

中:「南部弁ってどんなのだろうね」「ブッシュがみゃあみゃあ言ってたりすんのかな」「ねえねえ、タピオカを押し付け合う場面があるんだけど、なんでだろう。美味しいよね?」「中華のテイクアウトって憧れたなあ……」「王将の餃子なら持ち帰れるよ?」「みかんジュースの冷凍って何?」「そもそもオレンジじゃなくてみかんジュースって、違うの?」「あー、原文はタンジェリンだって」「作る、じゃなくて〈こしらえる〉って言い回しがいいなあ」「浅羽さん……」「浅羽さん……」「浅羽さん……」(滂沱)

〈捜査について〉

初:「警察にまかせておけばいいのに」「ヒロイン視点の話だから、常にヒロインが現場にいないと話が進まないんだろうけど」「はっきり言って2時間ドラマ」「ヒロインが順にひとりずつ疑ってそのうち当たりにぶつかるって、こんなやりくちでいいのか?」

好:「謎解きより炊事と子育て、これがまず第一ってのがリアルよね」「事件嗅ぎ回ってても夕方にはご飯作るし、聞き込みより子どもの送り迎え優先だしね」「ジェーンが捜査に首突っ込むのもさあ、主婦って立場を警察に見下されたからなんだよね。家事のノウハウが謎解きのポイントなのに、警察は最初からそういうのをバカにしてかかってるから」「主婦なめんな、って話よね」

中:「2時間ドラマ的ではあるけど」「あ、ホントにドラマになったんですよ。片平なぎさで」「シェリイは誰?」「元モー娘。の中澤裕子」「えー?」「えー?」「えー?」「メルが細川茂樹ですね」「えー?」「えー?」「えー?」

〈ミステリのレベル〉

初:「事件起こるまでが長過ぎ」「そもそもさあ、あたしミステリが読みたかったわけ。こんなのミステリじゃないよ」「良くよめばヒントも伏線もあるんだけどさ、読んでるうちにもうどうでもいいって感じになるよなあ」

好:「伏線もしっかりしてるよね」「コージーにしてはミステリ的にとてもしっかりしてる」「まあ、コージーにしては、って但し書きがつく時点で問題なんだけどさ」「ちゃんとトリックとサプライズのあるコージーが読みたいねえ」「ねえ」「ねえ」

中:「っていうか犯人どうこうよりさ、あっちの方が衝撃じゃなかった?」「そうそう、あの真相ってインパクト強いよね!」「っていうか被害者誰だっけ?」「さあ」「さあ」「さあ」

 あと、書いておかねばならんのが、大好きチームで盛り上がったコージー全般の話。

「同じ主婦探偵でも、レスリー・メイヤーとはなんか違うよね」「レスリー・メイヤーは家庭に向かって閉じてる感じ。巣作り願望が強過ぎる」「このシリーズってロマンスの展開が遅すぎない? 登場人物紹介欄でメルが〈刑事〉から〈刑事、ジェーンの恋人〉に変わるまで何冊かけてるんだと」「アリサ・クレイグとかドナ・アンドリューズとかは、そのへんの展開がちょうどいい」「1巻で恋人になって、2巻が婚約時代の話で、3巻で結婚、4巻妊娠、5巻子育てってペースが理想」「普通は一冊でお泊まりまで行くよねえ」「いやそうでもないよ。お菓子探偵ハンナのシリーズなんて、12冊かけて、まだ二人の恋人候補をひとりに絞れないぞ」「あー、あれいらいらする!」「一冊ごとに、こっち上げてこっち下げての繰り返しなんだよね」「手旗信号か!」「かと思えばクレオ・コイルなんか、歩くフェロモンみたいなヒロインだしさあ」「あれも腹立つんだよねー」「クレオ・コイルもだけど、エイヴリー・エイムスもね、おまえら事件よりまずちゃんと仕事をしろよと」「イライラするとか腹立つとか言いながら、さすがに読んでるなあキミたち」

 そんなこんなで名古屋読書会始まって以来の企画モノ、ミステリーキッチンは皆様のご協力もあって無事終了。レジュメ担当兼ギムレット班班長K氏、料理班班長I嬢&S嬢、助っ人C嬢、受付&設営担当幹事W氏、二次会担当幹事T嬢、フライパン供出してくれた皆さん、そして何より貝谷郁子先生、どうもありがとうございました。ご参加下さった皆さんもありがとう。お楽しみいただけたでしょうか。今回も世話人・大矢は〈君臨すれども統治せず〉のモットー通り、何もしないで酒飲んでるうちにすべてが終わってました。

 次回は2月、課題図書はデニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』だ! 振り幅でかいぞ名古屋読書会!

大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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