第39回 ベストセラーミステリシリーズの映画化は難しい?

 今月は、実はまだ見てないんだけど、ものすごく気になっている映画3本を紹介したいと思います。

 それは「アウトロー」「PARKER/パーカー」「バーニング・クロス」の3本。どれもこの2月に日本で公開されます。

 この3本の共通点は、実はいずれもアメリカでベストセラーになっている、有名なミステリ小説シリーズの中の1作を映画化したものだということ。

「アウトロー」はリー・チャイルド《ジャック・リーチャー》シリーズ第9作『アウトロー』の、「PARKER/パーカー」はリチャード・スターク《悪党パーカー》シリーズ第19作『悪党パーカー/地獄の分け前』の、そして「バーニング・クロス」はジェイムズ・パタースン《アレックス・クロス》シリーズ第12作 Cross の映画化なのです。

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 で、リンク先の予告編を見ていただければわかると思うのですが、予告を見る限り、どの映画もけっこうおもしろそうなのですが、これがアメリカで大ヒットしてるかというとそうでもないらしいんですなあ。

 アメリカでは昨年すでに公開済みの「バーニング・クロス」は惨敗、現在(1月)公開中の「アウトロー」は健闘しているものの続編製作を決定するにはあと一歩、という感じだとか。

 アメリカでもこれから公開される「PARKER/パーカー」にはがんばって欲しいなあ。

 というか、《007》シリーズみたいな数少ない例外を除くと、けっこう有名なシリーズでも、映画化はうまくいかないことが多いのです。ほら、クライブ・カッスラーの《ダーク・ピット》シリーズとか、ジェフリー・ディーヴァーの《リンカーン・ライム》シリーズとか、いろいろあったでしょ。トム・クランシーの《ジャック・ライアン》シリーズも、なかなかリブートできないでいますよね。そういや、大ヒットしたとはいえ、《ボーン》シリーズは、ロバート・ラドラムの原作とはほとんど別物だし。《007》も今や原作シリーズとは全然違うものですよね。

 原因はいろいろあるとは思います。なんといっても、どんなに売れてる小説であっても、映画を見に来るお客さんの数と比べたら、読者数はずいぶん少ないということがあります。映画でもテレビでも「原作もの」というのは、知名度は確かに期待できるのですが、観客動員数という意味では、まだまだ確実じゃないわけです。

 もう一つの重大な問題なのは、映画化の脚色はすごく難しいものだということです。

 映画はだいたい2時間、長くても3時間くらいのものです。その脚本は400字詰め原稿用紙に換算すると、だいたい160〜240枚くらいでしょうか。長篇小説はどんなに短くても300枚、長ければ1000枚くらい簡単に越えてしまうわけで、その分量をいかに圧縮するかが、脚色の肝となるわけです。

 つまり、尺(上映時間)的に見て、「原作を忠実に映像化」することは、物理的に不可能だということなのです。

 逆に言うと、映画化における脚色の善し悪しは、原作の何を拾って何を捨てるか、にかかっているということになります。それはつまり、作品の持つ重要なテーマに絞って、ストーリーを圧縮して再構築することが必要だということで、ここでやり方を間違えちゃうと、お話の軸がぶれちゃうので、原作ファンはもちろん、初見の人たちにも見限られちゃうわけです。

 さて、「アウトロー」と「PARKER/パーカー」はすでに原作が翻訳されています。昔「見てから読むか、読んでから見るか」なんて宣伝文句がありましたが、映画のスタッフが、原作のどこを残してどこを捨てることで、2時間のお話として成立させたのか、それは上手く機能してるのか、なんてところに着目して、比較してみてはいかがでしょう。

 いろいろ発見があることはまちがいないですよ。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

「アウトロー」予告編

「PARKER/パーカー」予告編</span

「バーニング・クロス」予告編

 http://cinema.pia.co.jp/trailer/161453/

堺 三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

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