ミステリ試写室 film 10 PARKER/パーカー

公開目前のミステリ映画を原作との繋がりから紹介する不定期連載の「ミステリ試写室」だけど、今回の10回目で初めてのケースと遭遇した。というのは、この原作、いや原作を含むシリーズまるごとが、残念なことに現在は新刊書店で手に入らないようなのだ。

その原作は、リチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイクの数ある別名のひとつ)の『悪党パーカー/地獄の分け前』(ハヤカワミステリ文庫)。なにせ10年以上も前に出た本なので、やむを得ないと言えばやむを得ないのかもしれないが、絶対零度の主人公パーカーの悪の魅力と、ケイパー小説(襲撃・強奪もの)としての当代随一の面白さを思うと、ついつい「それはないだろう」と思ってしまう。

シリーズについて言えば、“悪党パーカー”ものは、『人狩り』(1962)を皮切りとして、40年以上にわたり都合24作が書かれているが、16作目のシリーズ集大成的な『殺戮の月』(1974)が節目となり、いったん長い休眠期に入った。しかし、四半世紀近い時を経て『エンジェル』(1997)で見事に息を吹きかえし、シリーズは2008年に作者が鬼籍に入るまで書き続けられた。

この『地獄の分け前』(2000)は、リブート後の3作目にあたる。これまでシリーズは何度か映画化されていて、次に掲げるとおりにさまざまな役者たちがパーカーの役どころを演じてきた。(映画名/製作年/監督/主演者/原作の順)

・〈殺しの分け前 ポイント・ブランク〉/1967/ジョン・ブアマン監督/リー・マーヴィン/『人狩り』

・〈汚れた七人〉/1968/ゴードン・フレミング監督/ジム・ブラウン/『汚れた七人』

・〈組織〉/1973/ジョン・フリン監督/ロバート・デュヴァル/『犯罪組織』

・〈Slayground〉(未公開)/1983/テリー・ベッドフォード監督/ピーター・コヨーテ/『殺人遊園地』

・〈ペイバック〉/1999/ブライアン・ヘルゲランド監督/メル・ギブソン/『人狩り』

前段であえて“役どころ”と断ったのには、ワケがある。実はシリーズの映画化第一号は、『死者の遺産』をもとにしたジャン=リュック・ゴダールの〈メイド・イン・USA〉(1966)だが、ヌーベルバーグの巨匠による原作からの逸脱ぶりに激怒したスタークは、それ以降映画化は認めても、“パーカー”という名前は一切使用を禁ずという姿勢を貫いてきた。(一説によれば、アメリカでの上映を阻むために上映権を手に入れることまでしたという)したがって、故人の財産管理者から承諾を得て、ずばり〈PARKER/パーカー〉を名乗った本作は、“悪党パーカー”のキャラクター名が使われる初の映画化作品となる。

その遅れてやってきた初代パーカーを演じるのは、ジェイソン・ステイサムだ。犯罪映画の新しい古典ともいうべきガイ・リッチー監督の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1999)でデビューしてから十余年、いまや出演映画の多さではニコラス・ケイジやブルース・ウィルスらと肩を並べる売れっ子である。小説では「強面で冷酷な」と描写されるパーカーだが、タフネスとクールネスの両方を備えたステイサムの面構え(おまけに悪人顔だし、失礼)は、まさにこの役にうってつけといっていいだろう。

前置きが長くなってしまった。では、予告編をご覧いただくとしよう。

映画は冒頭、そのステイサムがメタルフレームの眼鏡姿で登場する。パーカーの内なるインテリジェンスをのぞかせる風貌にニヤリとする間もなく、神父姿のパーカーを含む4人組の大胆不敵な襲撃計画が切って落とされる。彼らの狙いは、イベント会場の売上金だ。いかにも“悪党パーカー”ものらしいプロローグといえるだろう。

しかし、実はこのあたりを含めて、映画は原作と微妙に異なる。仲間の裏切りに対しパーカーが復讐に転ずるという全体のプロットはそのままだし、思いがけない形で邪魔が入り復讐計画に水をさされる展開や、フロリダの高級リゾート地パームビーチでの大掛かりな強奪計画が終盤のハイライトとなるところも同じ。それでいて、ジョン・マクロクリン(〈ブラック・スワン〉、〈ヒッチコック〉)の脚本は、どこか原作と違う印象を与える。

そのわけは、『地獄の分け前』を再読すると判る。小説に仕掛けられたアイデアの数々は、さまざまに形を変えたうえで、ことごとく映画の中に活かされている。マクローリンは、スタークの原作をいったん解体し、そのディテールを映画用に再構築したと思しい。原作の面白さを劣化させることなく映画へ反映させているという意味で、〈PARKER/パーカー〉は原作の魂が細部にまで宿っているといっていいと思う。原典へのリスペクトは、エンド・クレジットに至るまで、2時間弱の映画の隅々から伝わってくる。

ステイサム以外の出演者では、報復の下準備を整えていくパーカーと出会い、物語の後半では重要な役割を演じるバツイチの不動産業者レスリー役のジェニファー・ロペスもいい女ぶりを発揮しているが、知名度ではロペスに劣るものの、パートナーとして主人公パーカーに寄り添うクレアを演じるエマ・ブースがいい。オーストラリア出身の女優で、まだ無名に等しいが、華奢な佇まいの内側からは芯の強さが伝わってくる。彼女の出番もある続編をぜひ望みたいところだ。

監督は、古くは〈愛と青春の旅立ち〉、最近では〈Ray/レイ〉などでおなじみのテイラー・ハックフォード。こういうタイプの作品を撮るのは初めてだと思うが、畳みかける幕開きから粋なエンディングまで、観客の興味を一瞬たりとも逸らさない演出は、さすがベテランの技だと唸らせる。

 最後に、再び原作に話を戻すと、シリーズの翻訳は本作の次の『電子の要塞』(2005年2月刊)が現時点での最新作で、残る4作は残念なことにお蔵入りしてしまっている。作者の未亡人アビー・ウェストレイクによれば、「(パーカーが)帰ってきてからの7作は、どれも豊かで、ドナルドも全部に満足していたわ」とのこと。そう聞けば、期待するなという方が無理だろう。ジェイソン・ステイサムのパーカーが胸のすく活躍をみせるこの映画が、原作シリーズの復刊、新訳紹介を後押しするなんてことになれば、最高なのだけれど。

※2月9日(土)よりロードショー公開予定

[公式サイトはこちら]

http://parker-movie.net/index.html

三橋 曉(mitsuhashi akira)

書評等のほかに、「日本推理作家協会報」にミステリ映画の月評(日々是映画日和)を連載中。

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