満席……

 開催日の前夜、12通めの参加希望メールが届いた瞬間、うれしく思うと同時に大きな不安が押し寄せました。20人以上もの会をさばいている方には笑われてしまいそうですが、いや、もう、本当にプレッシャーに弱いんですよ、わたし。前回の8人を超えたときから、ずっとドキドキしてたくらい。大丈夫、前回の参加者が全員来てくださるし、世話人なんかいなくたって会はとどこおりなく進むはず。それに、ほら、インフルエンザがはやってるから、欠席者だって出るわよ。そう自分に言い聞かせていたのですが——

 ——全員いらっしゃいました(笑)。

 動揺を抑えつつも、早めに来た方にお手伝いいただきながら準備を進めます。そう、埼玉読書会は世話人がひとり。なので、お客様扱いはいたしません。立ってる者は参加者でも使え、なのです。

 さてさて、今回はダイアン・ジェーンズというイギリスの作家のデビュー作、『月に歪む夜』を課題に取りあげました。

 50代の主人公ケイティーが一通の手紙をきっかけに、1972年の夏を回想するという物語で、2010年度の英国推理作家協会賞の最優秀新人賞にノミネートされた作品です(受賞したのはライアン・デイヴィッド・ヤーンの『暴行』でした)。過去と現在の切り替えがとてもたくみで、次第に増していく緊張感で一気に読ませてくれますが、よくよく考えると詰めの甘い部分があるのも事実。そのひとつについて、参加者からさっそくこんな感想が——

「人間ってずいぶん簡単に死んじゃうんだなーと思いました」

 ですよねー。やはりそこは突っこみたくなります。そこでさっそく、一般参加くださった担当編集者さん(ご招待するのを失念していてすみません!)にうかがったところ——

「そこは引っかって検索して調べました。訳者の横山さんとも相談し、アルコールとの相乗効果もあり、まったく不可能ではないだろうとそのままにしました」

 実際にはもっと具体的に、しかもざっくばらんにお話しいただいたのですが、ネタバレになるのでぼかしました。具体的な数字がすらすらっと出てきたところがさすがでございました。

 また、一人称小説である以上、“信頼できない語り手”という問題は避けられません。参加者から“思い出は都合よく書き換えられる”というコメントが出ましたが、本書はまさにそれ。語り手であるケイティーは嘘はついていないにせよ、必ずしもすべてを正直には語っていないし、30年以上も昔の話ですから記憶ちがいで不正確な部分もあるわけです。そのあいまいなところの解釈が参加者それぞれで微妙に異なっていましたが、ケイティーに対する大胆な仮説を披露してくださった方がいて、場が大変に盛りあがりました。いくらなんでもそこまでは——と思うものの、わたしが疑問に思っていたボーイフレンドの異様とも思える執着にも、その方の仮説で説明がついてしまい、なるほどーと思わされたのでした。

 話し言葉についての疑問から文字だけで性差や老若を描き分けることのむずかしさや、外国語の訛りを翻訳ではどう置き換えたらいいのかという話題に飛び、さらにはデイヴィッド・ベッカムのしゃべり方にまで話がおよんだり、現在パートのケイティの日常についてあれやこれやと突っこみを入れたりするうち、あっという間に2時間が過ぎ、部屋を明け渡す時間となりました。そのまま全員で懇親会へとなだれこんだのでした。

 そうそう、今回はキンドル・ペーパーホワイトが日本発売になって初めての読書会だったこともあり、キンドル話でも盛りあがったことをつけくわえておきます。