今回は2012年にデビューした二人の新人、オーウェン・ラウカネン(The Professionals)とクリス・パヴォーン(The Expats)を紹介します。

 The Professionals は大学時代からの友人であるペンダー、マリー、ソーヤー、マウスの四人組の物語として幕を開けます。

 二年前、シアトルで大学卒業を控えながら就職の当てもなく過ごしていた彼らは、リスクの少ない誘拐方法——ある程度裕福な人物に狙い定め、短時間で手配可能な金額の身代金を要求、警察に介入させないことを条件として、24時間以内に人質と交換する——を思いつく。

 一度だけのつもりでそのアイデアを実行に移したペンダーたちは味をしめ、全米を転々としながら誘拐を繰り返していた。

 四人はミネソタ州で投資会社に勤務するテリー・ハーパーの家族から身代金をせしめる。しかし解放されたハーパーは他の被害者たちと違い、泣き寝入りすることなく警察に届け出る。事件は警察からBCA(ミネソタ州捜査局)へと手渡され、カーク・スティーヴンズが担当となる。

 その頃、デトロイトに移動したペンダーたちは、工具や金型を扱う会社を経営しているドナルド・ベテノウを誘拐する。しかし彼は不敵な表情で「今すぐ解放すれば見逃してやる」と繰り返すばかり。詳しく調べるとベテノウの妻パトリシアは犯罪組織とつながりがあることが分かり、報復を恐れたペンダーは直ちにベテノウを解放することを決める。

 しかしベテノウがペンダーの名前を盗み聞きしたことを暴露すると、血の気の多いソーヤーはベテノウを射殺してしまう。殺人を犯したことで動揺したマリーは、気持ちを落ち着かせるため一旦シアトルに戻り、残りの三人はマイアミでほとぼりを冷ますことにする。

 一方、パトリシア・ベテノウから連絡を受けた組織はアレッサンドロ・ダントニオという男をデトロイ トに派遣していた。警察の内通者からの情報で四人の足取りをつかんだダントニオはマイアミの地元組織にペンダーたちの殺害を依頼、自身はシアトルへと飛ぶ。

 一方捜査を続けていたBCAのスティーヴンズはモーテルやレンタカー会社で誘拐犯と思しき人物の手がかりを何件か入手したものの、総て州外のため、捜査権をFBIに手渡す。しかしFBIは人手不足を理由にBCAに協力を要請、スティーヴンズはカーラ・ウィンダメア捜査官と二人で誘拐犯たちを追うことになる。

 この作品の面白さは、「確実に身代金(1回当り数万ドル程度)を手に入れる誘拐方法」という着想にあります。

 すべてうまく行く筈が些細なミスから破滅的な方向へ向かう、というおなじみの流れではあるものの、ラウカネンは四人組、スティーヴンズとウィンダメア、そしてダントニオと巧みに視点を切り換え、物語は予断を許さない展開で結末へと突き進みます。

 それに加え、登場人物も敵役のダントニオに至るまで一人一人丁寧に描かれており、群像劇としての面白さも兼ね備えた仕上りとなっています。スティーヴンズとウィンダメアは次作 Criminal Enterprise にも登場しており、こちらも楽しみです。

 一方、The Expats ではアメリカからルクセンブルグに移住したケイト・ムーアが主人公です。

 夫のデクスターには打ち明けられない仕事に従事していたケイトは、秘密を抱えて生きることに疲れていた。そんな折、フリーランスのコンサルタントとなったデクスターは金融機関の保安システム構築のため、ルクセンブルグへの移住を提案する。ケイトは「仕事」を退職、夫と二人の幼い息子と共にヨーロッパに旅立つ。

 見知らぬ土地で主婦として慌ただしい日々を過ごすケイトは、デクスターが以前よりも仕事に没頭し、その内容に関して多くを語らないことに疑惑を抱く。そしてルクセンブルグで知り合ったビルとジュリアのマクリーン夫妻の行動も、徐々に疑わしく思えてくる。

 マクリーン夫妻は自分の過去と関係があるのでは、と疑心暗鬼に陥った彼女は意を決し、自分を取り巻く謎を解明するべく行動を開始する。

 The Professionals に比べると地味な印象を与えるものの、パヴォーンは夫に対して秘密(「仕事」の内容は早い段階で読者に明かされる)を抱えている妻の行動を通して、それまで信じていた現実に別の角度から光が当てられていく過程を丹念に描いています。

 物語はパリに移ったケイトがジュリアと再会する場面から幕を開け、次の章ではその二年前、ルクセンブルグに移住する前のケイトとデクスターの会話の場面に飛びます。移住後もケイトの「仕事」絡みの回想が挟まれ、ようやく最終章になってパリに落ち着く……といった具合に、現在と過去を目まぐるしく行き来する構成です。

 まるで迷宮を彷徨う気分を味わう作品ですが、パヴォーンは読む側の予想をうまくかわしつつ、緊張感を持続させたまま最後まで引っ張っていきます。物語の途中で断片的に提示されていた内容がすべて明らかになる結末も見事なもので、「編集者及びゴーストライター」というパヴォーンの経歴もうなずけます。(The Expats は2013年のMWA最優秀処女長編賞と、ディリス・ウィン賞の候補に挙がっている)。

 原書は(費用と保管の観点から)ペーパーバックで購入することが多いのですが、珍しくハードカバーで読んだ二作はいずれも大当たりでした。今年も勘が当ることを期待しつつ……

寳村信二 (たからむら しんじ)

20世紀生まれ。2013年の初映画は『ロンドン・ヒート』(ニック・ラヴ監督)。 

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