さあ、みなさん。アンドレアス・グルーバーが来日しますよ!

 もしかするとご存じない方もいらっしゃると思うので、補足説明します。アンドレアス・グルーバー氏は先般出版された『夏を殺す少女』(創元推理文庫)の著者です。この作品はオーストリアの首都・ウィーンとドイツ中部圏の都市ライプツィヒを股にかけた規模の大きなサスペンス小説で、オーストリア発でありながらドイツを描く作品でもあるところがミソ。ドイツ語圏全域で読まれる大ベストセラーになりました。

 物語の発端はウィーンの弁護士エヴェリーン・マイヤースが、自身の手がけた案件を含む複数の死亡事故に奇妙な共通点があると気づいたことでした。マンホールに落下して医者が死亡、エアバックの誤作動のために亡くなった市会議員。それらの事故現場で、ある少女の姿が必ず目撃されていたのです。不審に感じた彼女は、一連の事故の背景を洗い始める。

 もう一つのきっかけは、ライプツィヒでヴァルター・プラスキーという刑事が、精神病棟で少女が死亡した事件に着目したことでした。病院ぐるみの隠蔽工作が行われているのではないかと考えたプラスキーは、職務権限を超える捜査に踏み切る。マイヤースとプラスキー、二人の抱えた事件がストーリーのどこで合流するのか、というのがこの作品でもっとも興味を惹くところです。

 こうして紹介するとグルーバーは生粋のミステリー作家のように見えますが、おもしろいことにそうも言い切れない。彼のプロフィールについては、訳者である酒寄進一氏のあとがきから引用をしたほうが早いでしょう。

「一九六八年生まれのグルーバーはまだ四十代の中堅作家だが、短篇小説の名手として知られ、ぼくが把握しているだけでも作品数は四十編に及び、傾向はSF、ホラー。ブラックユーモア、探偵もの、冒険もの、パロディと多岐にわたっている。雑読系であるぼくが夢中になった由縁だ。ドイツ語圏の文学賞の短編部門でも何度も一位に輝き、ノミネート作品も多い」

そして未訳長編の紹介部分も興味深いものです。

「(前略)二〇〇五年、オーストリア版ラヴクラフト叢書の一冊として長編Der Judas-Schrein(ユダの函)」を上梓した。これはアルプスの僻村で謎の殺人事件が起こり、派遣された捜査官や法医学者が次々と非業の死を遂げていくイヤミス的要素とクトゥルフ神話の神シュブ=ニグラスがまき散らす恐怖が合体した怪奇小説で、二〇〇六年ドイツ幻想文学賞長編デビュー作部門一位に輝いた」

それに続いて発表した保険会社専属探偵を主人公にしたシリーズでは「映画『ゴーレム』をライトモチーフにした物語」「(主人公が)映画『フリークス』を彷彿とさせるおどろおどろしい狂気の世界に迷い込む」といずれも興味深い内容が描かれている模様。それらホラー色の強い作品の後に発表されたのが『夏を殺す少女』というわけです。

これで見るとアンドレアス・グルーバーという作家の資質の中心にはホラーの素養があることは間違いないようです。そうした才能がどう開花していくのか、という点に興味を感じます。また、日本のエンターテインメントの、ミステリーやホラーというジャンルが成熟し、作家たちが意識的に境界を越えながら自らの作品世界を深化させていっている状況が、グルーバーという作家には重ね合わせられるように思うのです。日本とドイツ、国柄はまったく違いますが、そこにはもしかすると共通点、互いに刺激し合える着眼点があるのではないか。そういう期待を、グルーバーという作家は抱かせてくれます。

そこで来日イベントのお知らせです。来る3月26日(火)都内・新宿のBIRIBIRI酒場にグルーバー氏が来場し、ファンや関係者たちの質問にお答えします。ミステリーやホラーに限らず、ドイツ語圏内のエンターテインメントがどのような状況にあるのか。その中で作家たちはいかにして自分を確立し、読者を増やしていっているのか。刺激的な質疑応答、意見交換が行われるはずです。来場し、ぜひ歴史的瞬間にお立ちあいください。事前に質問も募集しております。twitter(@golivewirecom)かメール(newbookjapan@gmail.com)宛にお送りください。

それでは3月26日、新宿BIRIBIRI酒場でお待ちしております。

エキサイティングな一夜を!

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酒寄進一氏がドイツミステリの魅力を語る動画も予習のためぜひご覧ください。

20130226ドイツミステリー酒場2 Part1「ドイツミステリ作家の地政学:描く街と作風の相関図」

20130226ドイツミステリ酒場2 第二部「ジャンル縦横文体の魔術師アンドレアス・グルーバー」

[出演] 

酒寄進一(和光大学表現学部教授・翻訳家)

マライ・メントライン(NHK教育『テレビでドイツ語』出演)

杉江松恋(書評家・ライター)

[ゲスト]

アンドレアス・グルーバー(作家/『夏を殺す少女』(創元推理文庫)

[日時] 2013年3月26日(火) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] Live Wire Biri-Biri酒場 新宿

     東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F (Googleマップ

    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分

    ・丸ノ内線・副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分

    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分

[料金] 1500円 (当日券500円up)