第44回 肉体派&頭脳派の典型的なバディもの……なんだけど、どっちも
   美女なのがポイントの『リゾーリ&アイルズ ヒロインたちの捜査線』

 今年の夏も暑いですね〜。なんか、氷の消費量が増えている堺です。いや、常温の水飲んだ方がいいのはわかってるんですが、つい、キンキンに冷やしたものが飲みたくなっちゃって。

 さて今回は、そんなキンキンにクールな感じの原作小説から、すんごくゆる〜いドラマに変身しちゃった警察ものをご紹介したいと思います。その名も『リゾーリ&アイルズ ヒロインたちの捜査線』

 片や、短大卒の叩き上げ、ボストン市警ただ一人の女刑事。ただし、頭に血が上りやすいのが玉に瑕の熱血デカ、ジェーン・リゾーリ。

 片や、ボストン・ケンブリッジ大卒の超インテリ検死官。ただし、ちょっと常識外れで非コミュなところがある変人医師、モーラ・アイルズ。

 この二人のコンビが、ボストンの街を舞台に、次々に起こる難事件を解決していくという、ある意味典型的なバディものです。ちょいと普通のバディものと違うのは、二人がそろってセクシーな美女だというところ。

 実はこの原作シリーズ、本サイトの「え、こんな作品が未訳なの!?」のコーナーでも一度、辻早苗さんによって取り上げられている、アメリカでは人気の作品なのです( http://wordpress.local/1359411995 )。

 ただし、原作とドラマのあいだには、けっこう相違点があります。

 作者のジェリッツェンは元々内科医でした。87年の作家デビュー以来、ロマンス・ミステリを書いていましたが、96年、『僕の心臓を盗まないで』を発表して以来、医師としての知識を存分に生かした医学ミステリを書くようになります。《リゾーリ&アイルズ》シリーズも、そんな医学ミステリの延長線上に存在しており、警察小説+医学ミステリという趣向が特徴となっています。

 もともとこの小説版では、リゾーリは脇役でした。彼女の初登場作『外科医』の主役は、美男子の刑事と美人女医のコンビで、なんとリゾーリはあんまり美人じゃないし、男社会の警察内で出世しようとしてツンケンしている、かなりイヤなキャラなのです。つまり、どうにも、作者のテス・ジェリッツェンは、リゾーリを欠点の多い一癖ある人物として造形したかったようなのです。

 そして、続編の『白い首の誘惑』で、リゾーリはようやく主役となり、同時にアイルズが脇役として初登場します。さらに、次の『聖なる罪びと』ではアイルズのほうがメインの視点人物となり、ようやく、リゾーリ&アイルズのコンビものの体裁が整ってくる仕組みになっています。これは、あくまで私の想像ですが、ジェリッツェンは新作を書くたびに少しずつシリーズ化の構想を固めていったのではないでしょうか。

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 一方、テレビドラマ版では、最初にも書いたとおり、リゾーリもアイルズに負けず劣らずの美人であり、直情径行ながらも魅力的な人物として描かれています(ちなみに、『外科医』は過去の事件としてすっとばし、物語は『白い首の誘惑』の事件から始まります。ま、そうしないと、アイルズが第1話で登場できませんけどね)。

 また、お話のほうも、早々に原作を離れ、オリジナルの展開となります。どんどん医学ミステリの要素が少なくなっていくんですよね。そして、リゾーリ&アイルズを取り巻く愉快な仲間や、リゾーリのめんどくさい家族とのドタバタの要素がどんどん強くなって、わりとゆるーい感じのコージイなミステリっぽくなっちゃってるのです。

 中でも、姉御肌のリゾーリと、ちょっとズレてるアイルズとの、漫才っぽい掛け合いが作品の最大の魅力だったりして。

 というわけで、ずいぶん雰囲気が違ってしまった原作とドラマですが、アメリカではどちらも好評で、どんどん新作が作られています。ドラマ版のほうは日本でもWOWOWなどで放送されています。

 原作のほうは『聖なる罪びと』で翻訳が止まってしまっていますが、翻訳が再開されるといいなあ。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

●WOWOWの日本語サイト

http://www.wowow.co.jp/drama/rizzoliisles/

●DVD予告編

堺 三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

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