金沢には在住1年ちょっとの新参者のうえ、何かの会を主催した経験も人生で皆無だったわたくし。

 手はじめに発足5年の伝統を誇る〈金沢ミステリ倶楽部〉に入会したり、帰省の折にシンジケートの大阪読書会に参加してノウハウを盗み見たりといった心の準備を経て、おそるおそる世話人の仲間入りをさせていだだきました。

 そして迎えた8月24日の第1回読書会当日——さほどの緊張もなかったのは、〈金沢ミステリ倶楽部〉で顔馴染みのメンバー6人と、今回のゲストで師匠でもある越前敏弥氏に囲まれての心強い環境だったおかげです。加えて、初めてお目にかかるかたも4人お越しくださり、12人での開催(いえ、当日欠席ながら、A4用紙2ページに及ぶ感想文を事前に寄せてくれた某氏を含めれば13人ですね)となりました。

 課題書の『氷の闇を越えて』は、ハードボイルドにサイコ・サスペンス風味を加えた、スティーヴ・ハミルトン作の私立探偵小説。翌25日にコラボ開催された福島読書会の課題書『解錠師』は同作者の単発作品ですが、こちらはシリーズものの第一作です。

 まず、参加者におしなべて好評だったのは「書き出しの文章の吸引力」と「簡潔な文体・描写」でした。登場人物が少なく、しかもそれぞれのキャラが立っているところが読みやすさにつながっている、とも。

 海外ハードボイルドらしい洒落た会話やシニカルなジョークが、ふだんこういうものを読まない人にどう受け止められるのか、筆者は興味津々だったのですが、本作ではそうした部分にも抑制が利いている(=キザすぎない)ためか、すんなり馴染んでもらえたようです。

 いくつものミスディレクションが仕掛けられた作品ゆえ、だれを怪しいと見て読むか、各人が注目した登場人物にばらつきがあったのもおもしろいところ。

 また、小説の作りについて「情報提示の案配が巧み」と称賛する意見もあれば、「状況を台詞で説明させているところがやや白ける」との辛口の意見もありました。

 キャラクター、特に主人公のアレックスに関する感想では「トラウマを負った人物像に惹きつけられた」派と「心の傷をあまりに長く引きずっていて魅力を感じない」派に二分されました。不倫関係にあった女性への想いを持て余し気味のアレックスに「50歳近い年齢のわりに恋愛に不器用すぎる」と鋭く切りこむ意見も!

 ほかに、富める者特有の残酷さを体現したミセス・フルトンの存在感や、コメディーリリーフ的に登場する探偵プルーデルの魅力を挙げた人も。

 印象深かった点として多く意見が出たのは、主人公が長年抱えてきた”恐怖”と、その恐怖の根源となったローズという服役囚の”狂気”です。

「恐怖を”消し去る”のではなく、XXXX」(←これは書きたいけど書けない!)という終わり方にはっとさせられた、とのコメントをはじめ、「『羊たちの沈黙』のレクター博士と、本作のローズのイメージが重なった」という人が複数、「狂気の描写がリアルでよく描けている」という、精神科勤務のかたからの説得力ある評も聞かれました。

 また、「ロッジの管理をしながらたまに探偵仕事というのは、けっこういい暮らしなのでは」「極寒の土地の小さな町で繰り広げられる人間ドラマが映画を観ているよう」など、主人公のライフスタイルを楽しんで読んだというコメントも。

 嬉しいことに、シリーズの続きをぜひ読みたいと大半の人が言ってくださり、全般に、処女作にしては非常に完成度が高いという評価でした。レギュラー陣のやりとりがさらに楽しくなる後続作品の復刊を一同で切望しつつ、会はお開きに……。

 さてこのあと——越前氏は翌日、福島でご当地グルメ三昧の予定と聞いていたので、こちらでは金沢情緒を味わってもらうべしと、町屋を改装したレトロな居酒屋での宴会に突入。内外問わずのミステリー話で盛りあがったのはもちろんですが、最後にはゲストお得意のロマンポルノ談義に行き着いているところがなんとも……ええと、よろしかったんじゃないでしょうか(同好の士も見つかったようですし)。

 それでは、最後にちらっと予告を。

 第2回金沢読書会は11月30日(土)、『卵をめぐる祖父の戦争』(ディヴィッド・ベニオフ著/田口俊樹訳)を課題書に開催します。

 参加者からのリクエストでこの作品の名前が挙がり、「それならこんどは田口俊樹さんをゲストに」……なんて夢のようなことを口走ったら、その夢のようなお話が実現することになりました。ご快諾くださってありがとうございます、田口さん!

 ということで全国のみなさま、次回開催告知を楽しみにお待ちください。

 あすは、その翌日に開催された福島読書会のレポートを掲載します。どうぞお楽しみに。(事務局)

会心の訳文(『氷の闇を越えて』より、執筆者・越前敏弥)

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