名コンビ、迷コンビ、珍コンビ。翻訳ミステリーには魅力のあるコンビが登場する作品が多々ありますが、今回ご紹介するのは“名”とも“迷”とも“珍”とも言えるコンビが突っ走ってくれるトッド・ロビンスンの The Hard Bounce です。

 舞台はボストン。男子のみの児童養護施設で育ったブーとジュニアは長じても親友の契りが固く、ふたりでセキュリティ・オフィスをかまえ、〈ザ・セラー〉というナイトクラブで用心棒を務めている。

 ある日ブーは、カサンドラという名の十四歳の少女を探してほしいと依頼される。依頼主は少女の父親であり、次期市長と目される地方検事のドネリーだった。カサンドラはサマーキャンプに参加後、自宅に帰ってこず、〈ザ・セラー〉で姿が目撃されていた。そのためドネリーは腕っ節の強そうなブーに娘探しを頼んだのだが、ブーにしてみれば「実力派の地方検事がなんでおれに? おれに探偵のまねごとができるのか?」と頭のなかは疑問符だらけ。しかし、提示された報酬に目がらんらんと輝き、ジュニアとふたりして「こんなチャンスを逃す手はあるまい」と依頼を引き受ける。

 まずブーたちはカサンドラの部屋を調べ、見つけた写真にうつっていた腕に蛇のタトゥーのある男、ブーたちいわく“スネーク”を追うことにする。やがて“スネーク”が、未成年の少女たちをレイプする実際の様子をおさめたDVDを闇ルートで売っていることが明らかになる。それらのDVDを探ったところ、カサンドラが犠牲になっているDVDにいきあたる。しかもレイプするだけにとどまらず、ナイフで刺殺する場面までうつっていた。どう見ても、カサンドラは死んだとしか思えなかった。

「これで報酬が……」と頭のかたすみに不謹慎な思いが浮かびはしたが、それ以上に抵抗できない少女を殺害したことへの怒りがたぎり、「やつをこの世から抹殺してやる」とばかりにブーたちは“スネーク”探しにかかる。が、ようやく居所を突きとめて乗りこみ、“スネーク”に襲いかかろうとしたとき、カサンドラがまるで帰るべき場所に帰ってきたといいたげな顔で現われる。彼女は自分の意志で“スネーク”のもとにいたらしく、くだんの殺害シーンをおさめたスナッフフィルムは芝居だったと判明する。

 ブーたちはカサンドラを連れ帰り、無事ドネリーのもとに帰した。これで任務は完了し、報酬も当初提示された以上の額を手にし、おまけにブーはドネリーの連絡係を務めていた女性と親密な関係となり、すべてはハッピーエンドのはずだった。そんな矢先、ブーが何者かに脚を撃たれる。“スネーク”の復讐なのか? “スネーク”の身辺を洗ううちに、彼が街の裏社会の大物と血縁関係にあることがわかる。

 単なる少女探しだったはずが思いのほか根深いものになっていき、ダークな雰囲気の漂う作品ですが、ブーとジュニアの互いに突っ込みあう軽妙な語り口にかなり笑えます。よく考えれば陰惨なシーンも登場するので、笑っていていいんかい? と思わなくもないのですが、やっぱり笑えます。

 ブーがジュニアに、「おまえ、これまでに読んだ本って十七冊だけだろうが」と言えば、「だけど、そのうち三冊は写真が一枚も載ってないんだぞ。それにオッパイの写真がかけらもない本だって二冊読んでる」とジュニアが切りかえす。ああ言えばこう言うのオンパレード。そのあたり、ジョー・R・ランズデールのハップとレナードのシリーズを思い起こさせます。あの手の笑いがお好きな方は、ぜひご一読を。

 本作が長篇デビューとなる著者、トッド・ロビンスンはクライム・ノヴェルを扱ったウェブサイト Thuglit の運営に編集主幹として携わり、ファンのあいだでは Big Daddy Thug(殺し屋のおやじ)と呼ばれています。編集業と並行して、短篇を発表したり、クライム系のアンソロジーを上梓したりしており、今後は長篇作家としての活躍も期待されます。

 Thuglit は同名の雑誌も発行していて、現在七巻まですべてアマゾンで購入可能です(キンドル版)。またウェブサイトではグッズも販売しているのですが、なかには THUG と文字のはいったベビー服も。「殺し屋」と書かれたベビー服を自分の子どもに着せたがる親って……ちょっと怖い。

高橋知子(たかはしともこ)

翻訳者。訳書にマイケル・ディルダ『本から引き出された本』、ウィル・シュワルビ『さよならまでの読書会』など。食事のおともは海外ドラマ。お気に入りは『CSI』と『メンタリスト』。

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