20130627043830.jpg 田口俊樹

 空耳ならぬ空目。確か同じ長屋の住人、越前さんのブログかツイッターで見て、わりと最近知ったことばなんですけど、若い人たちの新語かと思ってネットで確かめたら、昔からあることばなんですね。

 年配者の常として、そうとわかると、なんかいいことばに思えてくる。

 ソラメ。響きもいい。文学的でさえある。

 オスカー・ワイルドの『ソラメ』とかね。谷崎潤一郎の『ソラメ雪』とか。ソラメの薄造りとか。ソラメファドンとか。派手なソーラメの衣裳とか。各賞ソーラメの傑作とか。ヤーレンソーラメ節とか。どんどん離れてますが。

 いずれにしろ、こないだ、ほかでもないこのシンジケートのサイトを見ていて、私も体験しました。ソラメ。

 『解錠師』が課題図書ということで、これまたほかでもない越前さんも参加された第六回福嶋読書会、MY子さんが書かれたレポートです。その中に次のようなくだりが……

 ……食パンで越前の模型をつくり、解錠シーンを実演……

 えええ???!!! 越前の模型???!!!

 それになんでいきなり呼び捨てなんだ?

 シュールな内容と同時にそんなことも思ったんですが……

 はい、ソラメだったんですね。「越前」じゃなくて「錠前」だったんですね。

 越前さん、た、たいへん失礼しました、って、だったら黙ってりゃよかったんだけど。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 20130627043831.jpg  横山啓明

ボンジョルノ。

ただいまボローニャにいます。

ここは肥満の街と言われているほど

美味しい物がいっぱいあるところ。

う〜ん、たしかに。食の宝庫。

これは太る。

これからフィレンツェへ移動するんですが、

去年、メディチ家礼拝堂の売店で

拙訳『メディチ家の暗号』の原書が売られ

ているのを発見、嬉しい驚きでした。

今年もあるかな?

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 20130524023841.jpg 鈴木恵

ナチが擡頭する時代のベルリンを舞台にしたクッチャーの『濡れた魚』『死者の声なき声』には、個人的にふたつの点で注目している。ひとつはこの時代のドイツをアメリカ人でもイギリス人でもなく、ドイツ人自身が描いているという点(当たり前だと思うかもしれないけれど、アメリカ風の正義で時代を後知恵的に再構成していない作品は貴重だと思う)。もうひとつは主人公のラート警部がなんとも利己的な刑事だという点。警察小説の主人公にあるまじき自己中男。はみだし刑事だけど、手柄を立てたい一心ではみだしてる。要するに、まったく正義漢じゃないのである。正義感てのはときとして愛国心と同じくらい傍迷惑なものにもなるから、ここんところはすごく大切。おまけに彼は政治にも関心がない。ラートの今後がどうなるかはわからないけど、義憤に駆られてバカなまねをする男じゃないから(けっこう感情的な行動を取るけど、それも利己的な理由から)、きっとうまく生き延びてくれることと思う。続篇も愉しみ。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:コンロン『赤と赤』 ウェイト『訣別のトリガー』 バリー『機械男』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

  20130912093838.jpg  白石朗

 9月23日はオーチャードホールで高橋幸宏さんのパワフルなドラムを堪能、相前後して手にとったのが、雑誌〈ユリイカ〉10月臨時増刊号〈総特集・高橋幸宏〉です。音楽誌とは異なる切り口の興味深い特集でした。その一篇、幸宏さんの著書『心に訊く音楽、心に効く音楽』の構成を担当した天辰保文氏の評論で、故・青木達之氏(東京スカパラダイスオーケストラ)にドラム上達法をたずねられた幸宏氏の名回答が紹介されていました。

「ドラムの練習をするくらいだったら、恋愛をしなさい」

 とっさに、「翻訳の練習をするくらいだったら〜(以下同文)」とさらりとカッコよくいえて、さまになる同業諸兄を脳内検索したことは秘密。

 なんて冗談はともかく——スティーヴン・キング『11/22/63』に寄せられた多くの方々の感想、拝見しています。ありがとうございます。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、最近はワープロソフト〈松風〉で翻訳。最新訳書はキング『11/22/63』、アウル『聖なる洞窟の地』、グリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』など。ツイッターアカウント@R_SRIS

  20131003074247.jpg 越前敏弥

 星野博美『戸越銀座でつかまえて』を読んでいる。単に軽妙というのでも辛辣というのでもない、何もかもまるごと書いてしまうこの著者の語りが好きだ。

 著者が自分の半生を語ったこのエッセイのまえがきに、こんなくだりがある。

「二〇代の頃、カメラマンの友人たちはよくこんな笑えない話をしたものだった。自由な活動がしたくてフリーにはなってみたものの、フリーになったとたん、以前にも増して人に頭を下げなければならない。フリーランスとは実に不自由な稼業だ、と。

 私は町工場の娘なので、そういう社会の図式がよくわかった。(中略)日本でいう「フリー」とは、ほとんどの場合が末端の下請けを意味することを、私は本能的に知っていた。

 私はフリーになりたかった。それも下請けを意味するフリーではなく、本来のフリーだ。(後略)」

 そして、「本来のフリー」をめざしたための煩悶が事細かに書かれている。なんか、翻訳者としても、いちいちうなずけることが多い本でね。勉強中の人とか、迷ってる人とかにもお薦めです。ただし、「本来のフリー」になるためのノウハウなんか、ひとつも書かれてないけど。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )

 20111003174437.jpg 加賀山卓朗

 日本にいると、本当にいろいろ細かいところまで気が配られていてすばらしいと感動することもあれば、いやそんなに気遣わなくていいから家でゆっくりしてなさいよとアドバイス(余計なお世話)したくなることもある。

 このまえ、犬のトイレシーツを通販で買いました。たんに大きな段ボール箱に、シーツ300枚入りのビニール袋が3つ入っているだけの品物なんですが、その紹介写真が凝っていてびっくり。段ボールの蓋を開けかけたところを斜め上から広角ふうに撮っていて、とても素敵。でも、服飾品や食料品ならいざしらず、トイレシーツの詰まった箱を美しく撮って売上が伸びるんでしょうか。伸びるのか。

 万事こんな調子で「おもてなし」文化が進化したら、東京五輪のころにはこの国はどうなっているのだろうとちょっと複雑な心境になったりして(逃)

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 20130627043832.jpg 上條ひろみ

 このところだいぶすごしやすくなってきましたね。いよいよ「読書の秋」の到来です! この夏は暑さのせいで思うように読書が進まなかったので、そろそろ翻訳ミステリー大賞の候補作選びを念頭に置いてスパートをかけなければ。

 と思いつつ、さらに十月刊の〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ最新作のゲラを抱えつつ、宝塚月組公演「ルパン」(東京宝塚劇場)を、新人公演も含めると三回も観にいってしまいました。原作とはちょっと変えてあるところもあり、宝塚バージョンとしてうまいこと仕上げたなあと感心。もちろんミュージカルなのでルパンが歌ったり踊ったりするわけですが。黒燕尾にシルクハット、黒マント姿のルパンが現実離れしてかっこいいのも(『ルパン、最後の恋』では四十歳ぐらいだったはずだけど、三十歳ぐらいの設定)、美しく芯の強いヒロインを守るスーパーヒーローなのも、宝塚の様式美にぴったりでした。ただ、トップスターが演じるので、〈四銃士〉のなかのだれがルパンかはすぐわかっちゃいますけどね。この公演は十月六日(日)まで東京宝塚劇場にて上演中です。このネタ、何カ月も引っぱってすみません。

 九月に読んだ本ではクリスタ・デイヴィスの『ジューンブライドはてんてこまい』が期待を裏切らないおもしろさでした。

(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇)

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